6月に種子島でのキタキチョウ採集および野外調査を行った。サンプリングしたメス成虫を産卵させ、次世代において性決定遺伝子doublesex (dsx)のスプライシングが幼虫期にどのように変化していくのかを調査することにより、ボルバキアwFemを持たないZWメスやZZオスでは、一貫してdsxのスプライシングがそれぞれメス型、オス型に明確に分かれていたのに対して、ボルバキアwFemに感染したZOメスでは幼虫初期にはdsxのスプライシングが不完全であり、メス型とオス型が両方存在しており、ボルバキアの増殖に伴い、dsxのスプライシングがメス型のみに変化することが分かった。この結果から、W染色体を持たないことによる不完全な性決定を成長後期にボルバキアが補完し、完全なメス形成を促していることが窺えた。この現象は、幼虫後期に抗生物質によってボルバキアを除去することによって間性個体(オス形質とメス形質を併せ持った個体)が出現するという以前得られた結果と符合する。残念ながら、出張制限もあったため、染色体伝達阻害の仮説検証のためのサンプルを野外(種子島)から十分に確保することができなかった。また、ボルバキアが培養細胞の性決定を変化させていることを明らかにし、感染後の時間経過と、dsx等の性決定遺伝子のスプライシングパターンの変化を、スプライスバリアント特異的なリアルタイムPCRにより記述した。昆虫の性決定は細胞自律的に決まるとされているが、ボルバキアによる性転換も細胞自律的な現象であることが明らかとなった。
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