研究課題/領域番号 |
19H02973
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
森山 実 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (30727251)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 共生微生物 / 垂直伝達 / 共生細菌 / カメムシ / 産卵 |
研究実績の概要 |
カメムシ類昆虫では、自身の生存に不可欠な相利共生細菌を次世代へ受け継ぐ際、共生細菌を分泌物中に封入し、産下した卵の傍らに塗布することで一時的に体外で保管するという興味深い行動が知られる。本課題では遺伝学的アプローチおよび生化学的アプローチを用いて、この宿主昆虫が産生する細菌保護物質およびその作用機序を明らかにすることを目的としている。 本年度はチャバネアオカメムシを中心としたカメムシ科昆虫を対象にとして、メス成虫特異的に共生器官の後端部に発達する特殊器官の解析を進めた。この垂直伝達器官について、詳細な形態学的解析のほか、RNAseqを用いた比較トランスクリプトーム解析を実施し、そこから浮上した候補遺伝子についてはRNAiを用いた機能解析を行った。その結果、垂直伝達器官に特異的に発現する転写因子を同定し、それが下流に存在する垂直伝達に必須な高発現エフェクター遺伝子群を制御していることを明らかにした。 また、共生細菌の次世代伝達に関わる形態学的および行動学的観察を進めたところ、産卵時に後脚を用いた新奇な伝達行動を行うことを発見した。また、この行動の発見により、卵表面に塗布される他の雑多な分泌物の中より、細菌封入物のみを選択的に回収することが可能となった。そこで得られた封入物質について、質量分析計を用いたプロテオーム解析を実施し、細菌封入マトリクスを構成する主要タンパク質群を同定することに成功した。今後、これらのタンパク質の機能解明に取り組む予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記の通り、共生細菌の垂直伝達を担う器官についての形態学的解析および遺伝子発現解析、垂直伝達に必須な分泌封入物質についての生化学的解析、また次世代伝達の行動学的解析など多角的アプローチにより研究を推進した。特に、従来知られていなかった新奇な垂直伝達行動を発見し、それが封入物質の効率的な単離方法の開発につながるなど、新規な知見が好循環で得られており、カメムシ類の垂直伝達に関して、行動レベルから分子・物質レベルまで包括的な理解が深まった。また、垂直伝達器官の詳細な形態記載および高発現するタンパク質に関する成果の一部については論文として発表した(Scientific Reports誌)。以上のことから、研究が予想以上のペースで進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後、同定された細菌封入物質については、それぞれRNAiをおこない、いずれのタンパク質が垂直伝達に寄与するかを特定する。また、メス特異的共生器官に高発現する遺伝子のうち、RNAiによって垂直伝達への役割が確認された遺伝子については、産卵時の局在や動態を追跡するとともに、タンパク質間相互作用等を評価することで、具体的な細菌保護機能の解明に取り組む。また、カメムシ科の他の昆虫類、他の近縁なカメムシ上科の昆虫類の次世代伝達行動および細菌封入物の解析を進めることで、細菌保護物質の普遍性や進化機構を明らかにしていく予定である。また、最終年度であるため、データを取りまとめ、論文や学会等での成果発表を順次進めていく予定である。
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