研究課題
本研究は,深層崩壊の実用的な発生危険度評価手法の開発を目指し,深層崩壊の主要な発生場である大起伏の付加体堆積岩山地において,①直接手法を用いた斜面安定性の評価,②物理探査手法およびUAVリモートセンシングの適用性検証,③地形発達学的手法の適用性検証,に取り組むものである。当該年度においては,①に関して,昨年度に引き続き,主に静岡県の大井川水系において多地点での水文観測(平水時の流量および渓流水の電気電導度の計測)を実施した。また,滋賀県の葛川水系においても同様の観測を一部行った。崩壊トリガーとなる地下水位の降雨応答特性の解明に資する,降雨流出応答の時空間分布特性の実態に関するデータを取得することができた。②に関しては,大井川水系の重力変形地形が発達する山頂部において,地中レーダーを用いた地下構造探査を実施し,岩盤ブロックと凹地堆積物の構造に関するデータを取得することができた。また,葛川水系にて,熱赤外線カメラを搭載したUAVを用いて樹冠温度分布の測定を行い,本手法の地下水集中箇所検出手法としての適用性の検証を開始した。樹冠温度分布データを取得することには成功したものの,目的の達成に十分なデータを得るためには,撮影時の天候およびカメラの設定等の最適条件について課題が残った。③については,大井川水系,葛川水系,台湾の中央山脈南部において,昨年度に続き,それぞれ航空レーザー測量により取得された高精細な数値地形図に基づき,深層崩壊に先立つと考えられる重力変形地形などの判読を行った。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナウィルス感染拡大の影響により,当初計画であった台湾での現地調査に基づく検討については実施できていないものの,その一部を国内での検討に方針を切り替えつつ,全体としては大きな問題なく計画通り順調に進んでいる。具体的には,上記の研究実績に記したように,水文観測および地形判読に基づく基礎的なデータ収集を継続して行い,良質かつ新規性の高いデータを取ることが出来た。各種センシング技術の適用性の検証については,一部に条件設定の最適化に課題は残るものの,複数手法の現地への適用を進めることができ,新規性の高いデータを得ることが出来た。
上述のように,当初計画であった台湾での現地調査に基づく検討を国内での実施に切り替えつつも,基本的には申請時の計画に沿って進めており,3年目の研究についても同様に進めていく予定である。3年目は,1・2年目の研究を継続し,水文観測および地形判読などのデータの拡充とセンシング技術の適用性の検討を進めていく。水文観測については,平水時の瞬間値に留まらず,時系列連続データの取得を進める。また,センシング技術の適用については,同一サイトに複数の手法を重ねて適用することを目指す。
すべて 2020
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Geosciences
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10.3390/geosciences10060238
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