研究課題/領域番号 |
19H02992
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中川 弥智子 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (70447837)
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研究分担者 |
松尾 奈緒子 三重大学, 生物資源学研究科, 講師 (00423012)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 熱帯雨林 / 樹木の吸水深度 / 安定同位体比分析 |
研究実績の概要 |
気候変動に伴って乾燥化が危惧されている熱帯雨林では、熱帯樹木の乾燥ストレス耐性が種によって異なる可能性があるものの、そのメカニズムは未解明の点が多く残されている。先行研究では主に地上部の生理的・形態学的特性に着目し、乾燥ストレス耐性に関連する水利用特性の評価が行われてきたが、水吸収は主に地下部の根系で行われていることから、本研究では、熱帯樹木の乾燥ストレス耐性の種間差は、水獲得能力に関わる吸水深度の違いに起因していると仮説を立て、検証することを試みた。 前年度の研究より、東南アジア熱帯雨林の主な優占種・フタバガキ科3属6種の高木樹木では、やや乾燥した時期における吸水深度に種間差があることが分かった。一方で、土壌の乾燥状況に応じた吸水深度の変化の程度にも種間差が生じる可能性も考えられたため、降水量や土壌含水率が異なる時期に採集した過去の試料(14樹種)の吸水深度を季節間(3期間;平均的な降水があった時期、やや乾燥した時期、かなり乾燥した時期)で比較した。その結果、かなり乾燥した時期での吸水深度が一番深くなるという当初の予測に反して、全体としては、やや乾燥した時期での吸水深度が一番深くなることが分かった。やや乾燥した時期では、気温が平均より1℃以上低かったことから、樹木の吸水深度は土壌の乾燥状況だけでなく温度といった別の要因にも左右される可能性が示唆された。また、樹種ごとにみると3期間とも吸水深度に明確な差が生じない種や、乾燥に応じて吸水深度が深くなる種も存在したことから、吸水深度の季節変化にも種による違いがあることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウィルスの感染拡大により、2020~2021年度はマレーシア・サラワク州にある調査地への渡航が全くできなかったため、過去の試料を用いて抽出・分析を行い、熱帯樹木の吸水深度の季節変化を明らかにすることができた。また、地下部における吸水深度と地上部の水利用特性との関係を明らかにする研究項目では、新たなデータを野外で測定・収集することが困難であると判断し、先行研究や同調査地での共同研究者らの未発表データを用いて収集できる地上部特性、具体的には最大樹高、成長速度、開花頻度、および材密度と吸水深度との関係を評価することとして研究を進めたところ、これまでに、吸水深度や乾燥ストレス耐性と関連があるとされてきた地上部特性ではなく、開花頻度が高い樹種ほど深い土壌水に依存する割合が高いという、開花フェノロジーとの関係が検出された。そこで、吸水深度や吸水深度の季節変化の種間差の結果と合わせて論文としてまとめ国際誌に投稿・修正中であり、近いうちに発表できると見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルスの感染拡大により渡航が難しかった、マレーシア・サラワク州にある調査地への出張は徐々に可能になりつつある兆しがあるものの、現地のカウンターパートが渡航困難期間中に別機関に変更となったため、許可申請の手続き方法が変わり、調査許可取得に時間を要することが予想される。そこで、まずは本研究の残り1つの目的である、吸水深度と乾燥ストレス耐性との関係について解析を開始する。乾燥ストレス耐性は、過去に調査地で稀に起こった非常に強い乾燥期間における樹木の死亡率や成長速度を用いて評価することとする。年間を通して調査地へ出かけられない場合は、熱帯雨林と同様の湿潤林である国内の樹木を対象に、サンプリング手法の細かい点をつめるための予備実験に着手する。具体的には採取位置(高さ、大枝の違い)による影響や、効率的なサンプリングデザインの検討を行う。また、これまでは吸水深度の推定に水の酸素の安定同位体比を用いてきたが、くわえて水素の安定同位体比も分析することで、吸水深度の推定精度を高めることができるかどうかについて検証する。以上の成果を、適宜国内外の学会で発表するとともに、国際誌への論文としてまとめる。
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