研究課題/領域番号 |
19H02995
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
芳賀 弘和 鳥取大学, 農学部, 准教授 (90432161)
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研究分担者 |
藤本 高明 鳥取大学, 農学部, 准教授 (40446331)
勝山 正則 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (40425426)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 中国山地 / 融雪 / 栄養塩 / 懸濁態 / 流出 |
研究実績の概要 |
中国山地は、豪雪地帯に分類されるが、降雪期の平均気温が比較的高いため、将来の温暖化による水・栄養塩循環への影響が顕在化しやすいエリアとされる。このため中国山地の森林流域において、a)降雪-流出の一連の実態を定量的に把握し、b)積雪・融雪期の栄養塩の生産過程や流出特性について評価することの意義は大きい。本研究は、鳥取大学・蒜山研究林を活用し、積雪・融雪期の水と栄養塩の流出について上述aとbの観点から明らかにするものである。2019年度は、主に1)試験流域の蓄積データを用いた水と懸濁態栄養塩の流出特性の解析、2)水文観測体制の強化、および3)水質分析体制の強化を行った。 1)については、まず、冬期の降水量データを雨と雪に分離する方法を確立した。一般に、雨と雪の判別は気温に基づいて行われるが、本研究では気温に加え雨滴衝撃感知タイプの雨量計(雪は感知しない)のデータを併用し、雨と雪の判別精度が高めた。次いで、冬期の降雨イベントに着目し、雪で覆われた森林流域での降雨に対する河川水量と懸濁物質濃度の応答を解析した。その結果、それらの応答は夏期よりも緩慢であるものの、一度の降雨イベントで流出する懸濁物質量が冬期を通じて流出する量の約7割に相当する場合があることがわかった。 2)については、河川流量を観測するための水位計を増設し、欠測をバックアップできる体制を整えた。また、森林流域での短期・長期の流出現象を理解するために、降雨に伴い数時間~数日で起きる0次谷での復帰流の消長と、数十日~数ヶ月(あるいはより長い時間)で起きる基岩内地下水の水位変動を観測する態勢を整えた。 3)については、降水(林外と林内)と河川水に含まれる各種イオンの濃度の分析を継続した。さらに、閉鎖性水域の富栄養化対策にとって有用となる栄養塩としての全窒素の濃度、および全有機炭素について、新たな機器を導入して分析体制を強化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、積雪・融雪期の水文、水質、および気象の観測体制を整えることが課題であった。水文と水質の観測体制については、予想以上に充実させることができ、確実に整備することができた。しかし、気象の観測体制については十分に整備することができなかった。この理由は、2019年度が記録的な少雪年であり、気象の観測体制を強化しても十分なデータが得られないことが予想されたため、気象の観測体制は現状を維持することにとどめたからである。また、このことにより、水文と水質の観測体制が予定よりも強化されることになり、結果として強固な研究基盤が整った。気象観測は、積雪-融雪-流出の過程を解析する際に重要であり、次年度(2020年度)に集中して行うことにより、本研究を十分に遂行できると考えられる。 水文と水質の観測体制について、特筆すべきは、基岩内地下水を測定するためのボーリング孔の設置、および全有機炭素濃度と全窒素濃度の分析機器の導入である。ボーリング孔は、比較的尾根に近いところに設置され、地中30mの深さに達した。掘削中に溢水が起きた中央付近から最深部までの範囲を水の取り入れ部位とし、長期観測に耐えうるよう珪砂巻きスクリーンを取り付けて仕上げた。ボーリング孔内の地下水位変化は圧力式水位計を投入することで2019年の秋に開始したため、すでに積雪・融雪期を通じた期岩内地下水の水位データが得られている。また、全有機炭素濃度と全窒素濃度の分析機器(multi N/C 3100, Analytik Jena)は、本研究で重点を置いている懸濁態の分析にも対応可能な仕様となっている。このため、2019年度の採取した出水時(台風19号:10月12~15日、融雪期:1~3月)の河川水試料に加え、次年度以降にも採取される予定の試料やこれまでの保管試料の分析が可能であり、本研究の遂行にむけて果たす役割は大きい。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、2019年度に整えた水文と水質の観測体制を維持しつつ、現地調査を継続することが重要である。同時に、気象の観測体制を充実させることを目指す。 水文観測では、降水量、河川水量、地下水位、および水温を対象に、5~20分間隔のデータとして蓄積する。また、融雪量の解析に資するデータとして、積雪底面から土層に入る水量を計測することを試みる。水質については、台風と融雪に伴う出水時の河川水を採取し、分析するとともに、濁度センサーを用いて、河川の懸濁物質濃度を測定し、10分間隔のデータとして蓄積する。また、水質分析の結果と濁度センサーの結果に基づいて、河川水中の栄養塩と有機炭素に占める溶存態と懸濁態の割合を明らかにする。 気象観測については、気温、湿度、日射、風速、降水量、積雪深、および積雪量を把握する。また、対象とする試験地は、積雪・融雪期に降雨がもたらされる地域であるため、水と栄養塩流出の評価にとって雨と雪の判別は非常に重要である。そのため、一般の気象観測項目に加え、雨と雪を判別するための観測も行う。 2020年度中には、2019年度に得たデータに基づいて、水と栄養塩の流出量を溶存態と懸濁態の違いを考慮しながら算定することを目指す。また同時に、積雪・融雪期に着目し、豪雪地帯の南限域の水と栄養塩の流出特性を抽出することを試み、本研究の目的遂行のために現地調査とデータ解析の方向性を具体化することを目指す。
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