研究課題/領域番号 |
19H03015
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
土川 覚 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (30227417)
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研究分担者 |
稲垣 哲也 名古屋大学, 生命農学研究科, 講師 (70612878)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ハイパースぺクトラル画像 / CNN / 認識科学分析手法 |
研究実績の概要 |
本研究では、「多層構造のニューラルネットワークを用いた機械学習であるディープラーニングを木材の可視・近赤外シームレスハイパースペクトラルデータに適用して、木材の樹種判別を自動で行えるプロトコルを構築し、コグニティブスペクトロスコピーともいうべき新たな認識科学分析手法を確立すること」を目標としている。 今年度は、近赤外ハイパースぺクトラルイメージング(HSI)カメラによって、木材のHSI画像を高い再現性で測定可能とするシステムの立ち上げを行った。視野幅や光照射条件を適切に設定することで多くの試料を同一条件下・高SN比で安定してデータ取得できるようになった。またGPUディープラーニングワークステーションを新規購入し、解析環境を整備・構築した。 これらが当初計画以上に進行したため、2020年度計画であった可視画像および近赤外HISによる木材の樹種判別にも着手した。森林総合研究所提供の木材標本から広葉樹38樹種(120試料)を選別して可視画像および近赤外HSI画像を取得した。画像をもとに、CNNを用いて樹種判別を行ったところ、可視画像を用いた場合の正答率が62.1%であったのに対して、近赤外HSI画像を用いた場合の正答率は90.5%であった。試料分子振動情報を含むNIR-HSI画像をPCAによって圧縮し、作成した画像をCNNモデルに供することで、より精度の高い樹種判別モデルを構築することができた。すなわち試料表面の分子振動情報とその空間分布をCNNによって分析するという新たな認識化学分析手法の可能性を示すことができた。 さらに同様の手法を用いることで木材の強度特性あるいは植物種子の発芽も推定可能であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和元年度の研究計画である「試料収集、ディープラーニング解析環境構築」、「可視・近赤外ハイパースペクトラルイメージング(HSI)測定に関わる計測システムの最適設計」を遂行したほか、当初令和2年度計画であった「可視画像による樹種判別」および「可視・近赤外シームレスHSI による樹種判別」も達成した。 近赤外HSI画像の解析には以下新手法を提案・実行した。まず訓練データの各画像を空間平均化したスペクトルを説明変数として主成分分析を行い、ローディングを算出した。算出したローディングをSNVスペクトル画像に適用して主成分スコア画像(PC画像)を構築した。この画像に対して複数の層構造モデルに対して学習を行った後、検証データを用いてモデルの性能を検証することで最適層構造を決定した。最適と判断された学習済モデルの予測精度を評価するために評価データを用いて5回のテストを行い、予測正解率の平均値と標準偏差を算出した。その結果、広葉樹38樹種に対して高い正答率(90.5%)で樹種判別を行えることを示した。これまでの成果を論文としてまとめ、海外雑誌に投稿・受理・掲載された(Analyst, 144, 6436-6446 (2019)) さらに、当該手法の応用可能性を拡げるため、本手法によって木材の強度特性および植物種子の発芽を推定できることを示した。種子の発芽評価に関する成果は第35回近赤外フォーラムで発表した。 これらのことから、研究は当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように本研究の当初目標であった、「木材樹種判別の予測」についてはその目的を達成したといえる。現在はその適応範囲をさらに広げるため、さまざまな農産物の定量・定性分析を行っている。例えば、本手法によってジャスミン米と偽物を判定する研究も進めている。これまでの研究により、様々な農産物で「試料内の化学成分情報と試料の形状および化学成分の空間分布をCNNによって解析」すれば、これまで判別や定量が困難であったものを自動で認識できる可能性が高いことがわかってきた。今後はさらに高解像度のレンズを用いたHSIシステムの最適化(レンズや光源など)を行うとともに、さまざまな農産物の判別モデル作成を行っていく。
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