昨年度までに、国内に生育する針葉樹3樹種(スギ、ヒノキ)を用いて、圧縮あて材、正常材、未成熟材における、湿熱回復ひずみ(生材を水中煮沸することで生じる繊維方向の寸法変化ひずみ)、乾燥収縮率(遅延解放後の繊維方向全乾収縮率)を測定し、併せて顕微鏡観察による細胞壁の解剖学的特徴、さらにはエックス線回折パターン(βプロファイルにおけるラテラルピークの有無)を比較した。その結果、圧縮あて材については、生立木中から切り出した試験片は、水中煮沸によって繊維方向に大きく膨張すること(伸びの湿熱回復ひずみを示すこと)、一方、乾燥によって大きく収縮すること、しかしながら未成熟材では、そのような寸法変化挙動は見られないことを、一連の実験・観察によって、明らかにした。圧縮あて材仮道管の特徴的な寸法変化挙動は、圧縮あて材に見られる特徴である“S2L層”の性質に由来することを(ほぼ)確信した。 令和4年度は、上記の実測データを増やすとともに、新たな実験として“生材をDMSO (Dimethyl sulfoxide) 置換処理”することで生じる、繊維方向寸法変化挙動を調べた。その結果、生立木から切り出したばかりの圧縮あて材試験片は、DMSO置換処理によって繊維方向に著しく膨潤すること、その後水置換を行っても“膨潤状態”は解消されないが、その後は水中煮沸処理(湿熱処理)によって、本来の湿熱回復後の寸法に(ほぼ)戻ることが示された。一方、そのような効果は、正常材や未成熟材(βプロファイルでラテラルピークが見られなかったもの)では確認されなかった。このことから、DMSO置換処理は圧縮あて材の成長応力の遅延解放を引き起こす効果があること、それはS2L層の挙動に由来するものと考えた。 以上により、圧縮あて材に固有の寸法変化挙動は、S2L層の挙動に由来するものであり、S2層のMFAの影響は副次的であると結論した。
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