研究課題/領域番号 |
19H03019
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
河本 晴雄 京都大学, エネルギー科学研究科, 教授 (80224864)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | バイオマス / 熱分解 / 分子機構 / 細胞壁 / ナノ集積構造 |
研究実績の概要 |
木材や草などの木質バイオマスは中空の細胞により構成され、結晶性のセルロースミクロフィブリル(断面 12 x 12 nm)が繊維方向に貫き、その周囲をヘミセルロースとリグニン(両者を併せてマトリックスと呼ばれる)が取り囲む構造を持つ細胞壁を有する。本研究では、熱化学変換技術の高度化を目指し、細胞壁においてナノレベルで集積した構成成分が高温度域においてどのように分解するかを分子レベルで解明する研究を進めている。
令和元年度までの研究により、木材中のヘミセルロース(キシラン、グルコマンナン)の熱分解に対する反応性が単離物と比べて大きく異なることを明らかにしている。また、木材中のセルロースについても、純粋にセルロースのみよりなる綿セルロースとは異なる熱分解挙動を示すことを明らかにしている。これらの結果は、ナノ複合体である木材細胞壁の影響によると考えられる。さらに興味深い点は、スギ(針葉樹)とブナ(広葉樹)でその影響が異なる点であり、進化レベルの異なる樹種の違いにより細胞壁でのナノ構造の様相が異なっていることを示唆する。
そこで令和2年度には、その触媒作用により熱分解を促進することが予想されるウロン酸基(キシランに結合)の細胞壁中での配置、リグニンの影響等について引き続き検討を進めた。その結果、リグニンによる物理的な拘束作用が細胞壁内での構成成分の配置を固定し、ヘミセルロースとセルロースの熱分解反応性を大きく変化させていること、ウロン酸基の触媒作用が構成成分の熱分解反応性を決める重要な因子であることなどを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和元年度までの研究により、これまで全く検討されてこなかった木材細胞壁中でのセルロースとヘミセルロースが、単離成分とは大きく異なる熱分解反応性を示すことを明らかにしてきた。また、その影響が針葉樹と広葉樹で異なっており、細胞壁中での構成成分のナノ集積構造が両者で異なっている可能性まで示唆された。ここまでの成果のみでも当初の想定以上の研究成果である。
令和2年度には、このような反応性の変化につながっている構造(理由)が明らかとなり、研究を進めている者としてエキサイティングな1年であった。例えば、リグニンによる物理的な拘束作用により細胞壁中でのヘミセルロースの可動性が制限されており、その結果例えば触媒作用により近傍の成分の熱分解を促進するウロン酸基の影響がある特定の成分にのみに限定されること等を明らかにしてきた。また、ウロン酸の触媒作用に着目することで、細胞壁中での構成成分の可動性や存在状態を検討することができることを明らかにできたことも、今後の研究の進展に重要な示唆を与える。
木材細胞壁中での構成成分の存在状態の解明はホットな研究対象であるが、ナノサイズの複合体であることから研究の実施は容易ではない。本研究は、構成成分の分子運動の一つの目安となる熱分解に対する反応性を手掛かりに細胞壁構造に対してアプローチする手法を世界で初めて示しており、この分野におけるインパクトは絶大である。これらの理由により、“当初の計画以上に進展している”と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究に引き続いて、スギ(針葉樹)とブナ(広葉樹)における細胞壁中でのヘミセルロースとセルロースの熱分解反応性を調べ、これらの構成成分のナノスケールでの存在状態を比較検討する。その際、細胞壁構造を乱したボールミル処理試料、セルロースとヘミセルロースの界面での挙動を調べる目的でのパルプ試料などを効果的に利用する予定である。また、研究の最終年度としてこれまでに得られた成果を取りまとめ、セルロース結晶の研究者などとのコラボレーションを模索し、新たな研究体制を構築して次の基盤研究の計画を練り上げる予定である。
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