木材や草などの木質バイオマスは中空の細胞により構成され、結晶性のセルロースミクロフィブリル(断面 12 x 12 nm)が繊維方向に貫き、その周囲をヘミセルロースとリグニン(両者を併せてマトリックスと呼ばれる)が取り囲む構造を持つ細胞壁を有する。本研究では、熱化学変換技術の高度化を目指し、細胞壁においてナノレベルで集積した構成成分が高温度域においてどのように分解するかを分子レベルで解明する研究を進めている。
令和2年度までの研究により、木材中のヘミセルロース(キシラン、グルコマンナン)の熱分解に対する反応性が単離物と比べて大きく異なること、リグニンを除去するとこのような作用が消失することなどを明らかにしている。また、熱分解時に触媒作用を示すウロン酸(ヘミセルロースの一種のキシランに結合)の存在位置が針葉樹と広葉樹で異なっており、これが樹種による相違につながっている可能性が示唆されている。今年度はさらに、ボールミルした木材の挙動などから、リグニンの作用が細胞壁のナノ構造の物理的な拘束によることが示唆された。なお、ボールミルの成果をまとめてJournal of Wood Scienceに報告した論文が、2021年度のBest Paper Awardを受賞した。
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