研究課題/領域番号 |
19H03024
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
清水 宗敬 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (90431337)
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研究分担者 |
棟方 有宗 宮城教育大学, 教育学部, 准教授 (10361213)
森山 俊介 北里大学, 海洋生命科学部, 教授 (50222352)
内田 勝久 宮崎大学, 農学部, 教授 (50360508)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 成長 / ストレス / ホルモン / サケ科魚類 / 養殖 |
研究実績の概要 |
本研究は、サケ科魚類の成長に重要なインスリン様成長因子結合蛋白(IGFBP)の組換え蛋白を作製して、ゲノム編集による機能解析と免疫測定系の確立を行い、メカニズムの理解に基づいた成長・ストレスの診断法を開発することを目的としている。本年度は以下の成果を得た。 IGFBP-1a2と-1b1の2種類について大腸菌発現系を用いて組換え蛋白の作製を行った。チオレドキシンとヒスチジンタグ(His)を融合パートナーとしたサケ組換え( rs)IGFBPを大腸菌にて発現させた。そして、エンテロキナーゼによる酵素処理を行って融合パートナーを切断し、rsIGFBPを逆相クロマトグラフィーにより精製した。これまでに作製した他のIGFBP-1サブタイプと合わせて、脳下垂体初代細胞培養系を用いて成長ホルモン分泌量を指標に機能解析を行った。結果、IGFBP-1は一般的にIGF-I阻害作用を持つが、サブタイプによって作用の強さに違いがあることが示唆された。 ゲノム編集実験については、米国冷水養殖研究所と共同でIGFBP-2b1と-2b2のダブルノックアウト(KO)・ダウン(KD)を行ったニジマスに対して、給餌量を変えた飼育実験を行った。結果、成長停滞は一過性であったが、他のIGFBPによる補償的な反応は見られず、血中の遊離IGF-Iや標的組織のIGF受容体などが補償に関与している可能性が考えられた。 また、IGF結合能を持つ(Intact)IGFBP-1aのみを検出・定量する機能性リガンド免疫測定系(LIFA)の確立を行った。そして個体標識サクラマスを用いた飼育実験から血清試料を得、血中Intact IGFBP-1a量と個体の成長率との関係を調べた。その結果、LIFAにおいて血中量と個体の成長率の間に良い負の相関が見られ、IGF結合能を持ったIGFBP-1aが成長停滞に関与していることが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の大きな目標として、新しいIGFBP-1サブタイプの組換え蛋白を作製することと、IGF-Iの結合能を持つ(Intact)IGFBP-1aのみを検出・定量する機能性リガンド免疫測定系(LIFA)を確立することが掲げており、それらを達成した。 サケ科魚類には4つのIGFBP-1サブタイプが存在するが、本年度はそれら全ての組換え蛋白を作製することに成功した。また機能解析に必要なサケ成長ホルモンについて精製法の効率化を行った。そして、組換えIGFBP-1の機能を脳下垂体の成長ホルモン分泌量により解析し、IGFBP-1サブタイプ間にIGF阻害活性に違いがある可能性を示した。成果は、国際誌に投稿中である。 また、これまでの研究で、血中IGFBP-1a量を測定する時間分解蛍光免疫測定系(TR-FIA)を確立していたが、血中量と個体の成長率の間には相関が見られていなかった。そこで、血中IGFBP-1aにはIGF結合能を持つIntactなものと、酵素などで限定分解されIGF結合能を持たないものがあると仮定し、Intact IGFBP-1aに着目してLIFAを開発した。結果、Intact IGFBP-1aと個体の成長率の間には比較的高い負の相関が認められた。この結果はIntact IGFBP-1aがサケ科魚類の成長の負の指標として有用であることを初めて示すとともに、IGFBP-1bと合わせて2種類の成長停滞の指標を確立したことになる。これらは養殖現場における飼育魚のストレスや成長停滞の度合いを診断する上で非常に有益であると言える。成果は国際誌に発表済みである。 これらのことから、「おおむね順調に進行している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究を実施するにあたり、いくつか問題点・検討事項が浮上してきた。まず、組換え蛋白の作製については、タグを酵素により切断する際にIGFBPも非特異的に分解されることが問題であった。本年度は、様々な反応条件を試したが大きな改善は得られなかった。今後、酵素消化の特異性を上げるため、切断部位の配列の一部を変えることを考えている。また、IGFBP-2bなど他のタイプについては、チオレドキシンを含まないHisタグ付加のみの組換え蛋白を作製することで、回収率を上げる。このようにHisタグ付きではあるが大量に組換えIGFBP-2bを調製することで、ゲノム編集を施したニジマスなどへの生体投与実験に用いる。 本年度確立したサクラマスIntact IGFBP-1aのLIFAの有用性を今後検証する。まずサクラマス養殖現場から血液試料を得て、飼育魚のストレス・成長停滞度合いを評価する。また、ニジマスなどの他の養殖対象魚にも本測定系が用いることができるか検証する。また、IGFBP-1の組換え蛋白が、IGFBP-1aとIGFBP-1bの測定系のスタンダードや標識に用いることができるか否かを検討する。 ゲノム編集を施したニジマスの補償反応を様々なレベルで調べるため、血中における活性を持った遊離IGF-I量の測定を行う。さらに共同研究者はIGF受容体などを解析することで、IGFBP-2bのノックダウン・アウトの効果を総合的に評価する。
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