研究課題/領域番号 |
19H03027
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩滝 光儀 東京大学, アジア生物資源環境研究センター, 准教授 (50423645)
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研究分担者 |
高橋 和也 東京大学, アジア生物資源環境研究センター, 特任研究員 (00821109)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 有害藻類 / 赤潮 / ラフィド藻 / シャットネラ / 系統分類 / 微細構造 / 分布 / 東南アジア |
研究実績の概要 |
東南アジア産有害ラフィド藻Chattonellaの分布,種と個体群レベルでの識別,そして現在までの被害の概要の把握を目的として,東南アジアを中心とした現地調査による同種培養株の入手,形態観察,分子系統解析,そして国際ワークショップ等を介した出現情報の共有を開始した。今年度は現地研究者との共同調査により,タイのタイランド湾とフィリピンのスビック湾からChattonella培養株を新たに入手して培養している。形態観察と系統解析は,研究室で維持している培養株を用いて開始した。特に粘液胞の有無に着目し,産地と系統が異なるChattonella株の染色観察を進めた。また,4月にフランスのパリで開催されたIPHAB,10月にカナダのビクトリアで開催されたPICES,10月にチリのプエルトバラスで開催されたGlobalHABプロジェクトが開催した赤潮原因藻類研究に関する国際ワークショップに参加することで出現情報の収集と共有を進め,さらに,12月にはフィリピンのプエルトプリンセサで,アジア各国の有害藻類研究者を招聘することでアジア太平洋域におけるラフィド藻Chattonellaの分布と被害状況の情報交換を主目的としたWESTPAC-HAB国際ワークショップを開催し,東南アジアと東アジアにおける出現情報を共有するとともに,今後の有害ラフィド藻に関する国際共同研究推進の方針を確認した。東南アジアからはChattonellaの出現と被害に関する情報は過去に3例のみしか公表されていなかったが,それ以外の出現情報を現地研究者から直接入手して追加することができたため,現在は分布と被害に関する情報をまとめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は東南アジア沿岸域より赤潮出現に関する情報を海外研究協力者より入手し,現地研究者との合同調査により得た試料から単藻培養株を作成するとともに,研究室で維持している小型渦鞭毛藻の培養株を用いて形態観察と系統解析を開始した。現地調査ではタイのタイランド湾とフィリピンのスビック湾産海水試料からChattonellaの細胞を単離して培養株を作成することができた。これらを研究室で維持することで,今後の解析に備えている。現在までのところ,日本産株に加え,インドネシア,マレーシア,タイ,フィリピン,シンガポール産株を維持できていることから,今後これらの微細構造と系統について比較することができる。東南アジア各国の研究者とはWESTPAC-HABプロジェクト等を通じて連携を図っており,赤潮出現情報や研究試料の入手を行うことができている。12月にはフィリピンのプエルトプリンセサで国際ワークショップを開催することで出現情報の共有を計画通り行うことができた。さらに国際プロジェクトとして,東南アジアのマレーシアとフィリピンの研究者,そして東アジアの韓国,中国,ロシアの研究者と国際共著論文をまとめる機会を得たため,東南アジアと東アジアの地域ごとに有害ラフィド藻を含めた有害藻類の出現情報を詳細にまとめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に引き続き,東南アジア沿岸域における赤潮原因ラフィド藻の採集を継続し,単藻培養株を作成する予定であったが,今年度は現地調査の実施が困難であることが予想される。また,国際共同研究においても8月にインドネシアのジョグジャカルタ,9月に札幌,10月にメキシコのラパスで開催予定であった国際学会の延期が決定した。そこで今年度は,日本とアジアにおける感染症の状況を見ながら柔軟に対応するが,情報のとりまとめと実験を中心に計画している。大学の研究室での実験が禁止されている期間は,培養株の維持に取り組むとともに,これまでに収集した東南アジアにおける有害ラフィド藻Chattonellaの出現と被害記録に関する情報をまとめて論文を作成する。研究室での実験が可能になった際には,すでに作成して維持しているChattonella培養株の粘液胞の観察を再開し,ピレノイド基質へのチラコイドの陥入を確認するために透過電子顕微鏡観察を行う。シスト形成の有無を確認するための実験準備も整えていることから,東南アジア産培養株を中心に確認するための培養実験を行う。分子系統解析は前年度に新たに入手した培養株を中心に進め,系統的位置を明らかにする。
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