研究課題/領域番号 |
19H03028
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
入江 貴博 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (30549332)
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研究分担者 |
狩野 泰則 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (20381056)
福森 啓晶 東京大学, 大気海洋研究所, 特任研究員 (60746569)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 貝殻 / カルシウム / ストロンチウム / EPMA / WDS / 検量線 |
研究実績の概要 |
水産生物の資源量を決める重要な決定因子に、加入量の変動が挙げられる。個体発生初期に浮遊幼生期を持つ水産ベントスの場合、幼生期に起こる受動的な移流分散過程や死亡による不確定要素が大きく、各個体群への加入の規模を海洋環境に基づいて正確に予測するための手法の確立が喫緊の課題である。そこで本研究では、熱帯から温帯にかけての複数の野外個体群でサンプリングを行い、次世代シーケンサーを用いた集団規模での遺伝子解析、浮遊幼生期に作られた貝殻の微量元素分析、浮遊幼生の飼育実験を組み合わせることで、幼生分散を考慮した個体群間のコネクティビティーを定量化するための情報を収集している。 本年度は、EPMAに付属するWDS機能を利用することで、幼生期に形成される炭酸塩骨格(幼生殻)に含まれるストロンチウム(Sr)の濃度を正確に定量化するため技術的改善に必要なデータの収集に時間を費やした。これまで、WDSで得られた特性X線強度は、ZAF補正と呼ばれる近似的手法を介して炭酸塩のSr/Ca値に換算されてきた。しかしながら、一定温度での飼育下で作られたアラゴナイトの殻をWDSで分析したところ、ZAF補正による換算値には無視できない規模の推定バイアスが生じるだけでなく、大きなばらつきも発生していることが判明した。この問題を解消するために、Sr/Caの真値が既知である標本をWDSで繰り返し測定することで、検量線法に基づいて、特性X線強度を直接にSr/Caへと換算するための関数を導出することに成功した。以上の成果は質量分析学の国際的専門誌に投稿すべく、現在原稿を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は前年度に引き続いて、新型コロナウイルス流行のため、海外でのサンプリングは断念せざるをえなかった。国内4個体群での定期サンプリングは無事に実施することができた。また、2022年1月から3月末までは琉球大学瀬底研究施設に長期滞在して、WDSに関する検量線の策定に必要な貝殻を用意するための飼育実験を行うことができた。今回は、微量の塩化ストロンチウムを添加した海水で腹足類を飼育することで、貝殻に含まれるSr/Caを高くする処理に成功した。次世代シーケンサーを用いたアプローチに関しては、研究対象としている腹足類2種の全ゲノム解読が完了して、科学論文として情報を公開するための準備に着手しつつある。しかしながら、本年度は、研究分担者も含めてそれ以外の作業に時間を取られてしまったため、原稿の執筆を進めることができなかった。これと平行して、一塩基多型の種内地理的変異情報を取得するためのシーケンシング作業は順調に進行している。また、2020年度に取得したレーザアブレーションICP質量分析による貝殻の微量元素組成データについても、その後の統計処理にあてる時間を確保することができなかった。研究全体の作業量がたいへんに膨大であるため、遺伝的多型に関するビックデータの解析や、スーパーコンピューターを用いた粒子追跡の数値計算については、当初の予定に対して作業が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は研究課題の最終年度にあたるため、これまでに得られた科学的知見を成果として公表するための学術論文の執筆を、優先度の最も高い作業として掲げる。これと平行して、遺伝的多型を経時的に観測するためのサンプリングは続ける。ただし、2022年度も前年度からの新型コロナウイルの流行が続いており、依然として海外でのサンプリングは実施が難しい可能性が低くない。国内でのサンプリングは予定通り実施する。新型コロナウイルの流行に伴って予定外の遅延が生じている幼生の飼育実験に関しても、冬期に琉球大学瀬底研究施設において再開する予定である。また、ペンディングになっている遺伝的多型に関するビックデータの解析や、LA-ICP-MSを用いて取得したデータの統計解析、スーパーコンピューターを用いた粒子追跡の数値計算といった作業も進める。オンラインで実施される学会にも積極的に参加して、これまでの研究成果を発表していく予定である。
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