| 研究課題/領域番号 |
19H03029
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| 研究機関 | 東京大学 |
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研究代表者 |
岩田 容子 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (60431342)
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| 研究分担者 |
入江 貴博 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (30549332)
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| 研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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| キーワード | 海洋生態学 / 資源生態学 / イカ / 生活史 / 表現型可塑性 |
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| 研究実績の概要 |
水産重要種であるケンサキイカは熱帯から温帯にかけて広く分布し、種内で顕著な形態的変異が見られるが、変異の地域的・季節的出現状況や経験環境との関係は明らかとなっていない。本課題は、東シナ海から日本沿岸の広域にわたる調査により地域個体群間の交流、経験する海洋環境と表現型変異との関係を明らかにし、ケンサキイカ資源、及び近縁種であるヤリイカの環境応答を解明することをめざしている。
2020年度は年次計画に基づき、ケンサキイカの①遺伝子解析による個体群構造の把握、②生活史特性の地域個体群比較、③平衡石による成長履歴解析、④微量元素分析による経験環境推定に関し、調査・実験を行った。ケンサキイカは2020年度までに収集した台湾・沖縄・種子島・対馬・神奈川・宮城より漁獲されたものを用いた。その結果、台湾から日本周辺には種子島を除き遺伝的分化は認められないこと、成熟特性には地域や季節により大きな違いが見られること、また平衡石微量元素分析により台湾と日本の集団間のつながりが明らかになった。また、2020年度の台湾でのサンプリングは、コロナによる海外渡航制限のため2022年度まで再繰越を行ったものの、結局行えなかった。そこで代わって、⑤温帯から亜寒帯に生息する近縁種ヤリイカにおける調査とケンサキイカとの比較を行った。ヤリイカは2020-21年度に宮城にて漁獲されたものを用いた。集団中の性比、成熟個体の割合、成熟個体のサイズ頻度分布、生殖腺重量や成熟齢、孕卵数、卵サイズ等のまたヤリイカにおいて、過去の経験水温を推定するため、飼育水温と平衡石微量元素濃度の関係式をEPMA分析により求めた。また、ヤリイカの平衡石を用いた分析により、雄の繁殖戦術決定には孵化日が強く影響していることが明らかとなったことから、今後胚発生・孵化直後の環境条件を調べるため、人工授精法と胚の培養方法を確立した。
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| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①遺伝子解析による個体群構造の把握：2019年度にミトコンドリアDNA CO1領域のシーケンスを行なった結果は2022年4月に国際学会で発表し、現在投稿論文を執筆中である。
②生活史特性の地域個体群比較、③平衡石による成長履歴解析：成熟サイズ（外套長・体重）、生殖腺重量、成長と成熟へのエネルギー投資配分、平衡石解析による日齢・孵化日・過去の成長率などを季節・地域個体群間で比較し、環境条件が生活史特性に強く影響することが明らかにした。雌に関する結果は2020年に、雄に関する結果は2022年に国際学術誌に論文公表済みである。
④微量元素分析による経験環境推定：2020年度にレーザーアブレーションICP-MSを用いて約400個体の平衡石の微量元素分析を行った。本結果は、2021年度以降にデータ解析を行い、2022年度に投稿論文を投稿し、現在査読中である。
⑤近縁種ヤリイカにおける調査：宮城県で漁獲されたヤリイカの生活史特性を調べたところ、集団の中で孵化時期が早い雄はコンソート雄に、遅い雄はスニーカー雄になるという繁殖戦術への孵化日の影響が初めて明らかとなった。本研究成果は、孵化直後の経験環境が成熟時の繁殖特性に強く影響することを示していることから、平衡石の微量元素分析から孵化直後の経験環境を推定するため、一定水温・３つの水温条件で飼育した個体の平衡石をEPMAを用いて微量元素を測定した結果から、経験水温と平衡石Sr/Caとの関係式を推定することに成功した。また、胚発生期間中及び孵化直後の環境が表現化型変異に与える影響を明らかにするため、ヤリイカにおいて人工授精法と胚の培養方法を確立するための実験を行った。
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| 今後の研究の推進方策 |
①遺伝子解析による個体群構造の把握：分析やデータ解析は完了しており、国際学術雑誌への投稿に向け、論文執筆を進めている。
②生活史特性の地域個体群比較、③平衡石による成長履歴解析：本項目の分析はすでに完了しており、環境条件が雌の生活史特性へ与える影響に関して2020年に１編、雄の生活史特性に与える影響に関して2022年に1編の論文を国際学術雑誌に発表している。また、雄の繁殖戦術の割合と性比の関係から、生活史戦略を議論する論文を国際学術雑誌に投稿する予定であり、現在執筆が概ね完了している。
④微量元素分析による経験環境推定：本項目の分析・データ解析は完了し、現在国際学術雑誌に論文を投稿・査読中である。
⑤近縁種ヤリイカにおける調査：2021年度に行なった調査により、雄の繁殖戦術への孵化日の影響が明らかになったことから、この点に関して更なる調査を進める。まず、孵化日の影響は１年分の標本でしか確認できていないため、2022-2023年度の計３年間サンプリングと分析を行い、毎年同様の傾向が見られるのか、年間での環境の違いが繁殖戦術間での孵化日の違いにどのように影響するのかなどを調べる予定である。また平衡石成長輪紋を用いたバイオロジカルインターセプト法により、成長履歴解析を行い、どの時期の成長が繁殖戦術決定に影響しているかを調べる予定である。また胚発生時期・孵化直後の物理的環境が強く影響している可能性が示唆されたことから、人工授精実験により親の表現型・胚発生期間の環境条件（水温・日長）を操作し、胚発生・孵化直後にDNAメチル化による遺伝子発現調節が生じている可能性を検証することを検討している。
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