研究課題/領域番号 |
19H03030
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
矢澤 良輔 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (70625863)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 雑種不妊 / 生殖隔離 / サバ類 |
研究実績の概要 |
地理的あるいは時期的な生殖隔離の有無を考慮しつつ、対象となる各地域および各時期において各系群のマサバおよびゴマサバを戦略的にサンプリングを行った。サンプリングについては、移植の成功率が高い未分化型の生殖細胞を多数含む未熟な精巣および卵巣を優先的に凍結保存した。幼魚あるいは若魚のような未熟な生殖腺サンプリングができなった地点については成魚のサンプリングを実施した。サンプリングを行った地点は、日本海系群として、金沢および鳥取、太平洋系群として、千葉および鹿児島産において、マサバおよびゴマサバ をサンプリングした。また、各地のサンプリングをおこなった際に、天然雑種サンプルを獲得することができた。これらのことから、天然海域においても成魚サイズの雑種サバが各地に存在することがあらためて明らかとなった。 千葉県産の天然マサバおよびゴマサバを材料に、生殖腺の形態から性判別を行った。これらの雌雄各30尾の胸ビレからDNAを抽出し、それぞれの種および性について30尾のDNAを用いてpool-seqを行なった。取得した塩基配列は各群ごとに既知の近縁種ゲノム配列にマッピングし、マサバおよびゴマサバの性特異的なSNPsを探索した。pool-seqの結果から、マサバおよびゴマサバの性特異的なSNPsを同定した。マサバではメス特異的、ゴマサバではオス特異的SNPsが主に同定されたことから、マサバでは雌ヘテロ型(ZW)、ゴマサバでは雄ヘテロ型(XY)の性決定様式であることが強く示唆された。また、これらの性特異的SNPsを利用しPCRによる性判別法を開発した。 以上の結果から、マサバについてはZW型の性決定機構を有しているため、ドナーとなる生殖細胞は卵巣に由来する必要があり、これを踏まえマサバ卵巣についてもドナーとして凍結保存を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究遂行に必要となる実験魚の作出を研究計画通り実施できた。また、日本沿岸各地のサンプリングについても、おおむね計画通り、実施可能であった。この研究において、最も重要である日本各地の鯖生殖細胞の凍結保存については、繁殖期と漁獲期を考慮にいれサンプリングを行い、おおむね計画通り実行した。
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今後の研究の推進方策 |
サンプリング後、凍結保存した各系群の生殖腺をドナーとし、ゴマサバxマサバ雑種を宿主とした生殖細胞移植を実施する。これまでに、移植するドナー細胞には、A型精原細胞あるいは卵原細胞といった未分化型の生殖細胞が多数含まれていることが必須であることが明らかとなっている。そこで、密度勾配遠心分離により未分化型生殖細胞を高純度で濃縮したうえで移植を実施する。この技術は未熟な未分化型生殖細胞が他の分化型生殖細胞や生殖体細胞に比べその密度が異なることを利用したものである。この方法により濃縮したドナー細胞を生殖細胞移植に用いることで、ドナー細胞が宿主の生殖腺に取り込まれる個体の割合を80~100%にまで高めることに成功している。多くの海産魚と同様に、サバ属魚類では初期減耗が著しいうえ、少ない個体数での飼育が困難なため、ドナー細胞を取り込んだ移植宿主を効率良く作出し、ある程度の減耗を見込んで飼育することが本技術を成功させるために重要である。なお、ゴマサバxマサバ雑種は雄化傾向が極めて強いことが明らかとなっているため、移植を施した宿主の雌親魚候補群には、性ステロイド(エストラジオール-17β)を餌飼料に添加し、経口投与による雌化を実施する。
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