これまでの先行研究の結果から、ゴマサバとマサバの雑種F1世代はそのほとんどが不妊であるものの、その一部が妊性を有し、さらにF1交雑魚同士の交配により生じる次世代が生残生であることも明らかとなっている。しかし、サバ類養殖にこの雑種不妊による特性を利用するためには、生産した雑種F1世代において全個体不妊であることが必須だが、人工的に作出した大分産マサバと千葉産ゴマサバの交雑魚では妊性を有する個体の混入を排除できない。本課題では、マサバおよびゴマサバにおいて、同所的に種が分離していることを前提に、同時期、同海域で産卵するにも関わらず、生殖隔離が成立している系群間を交雑すれば、全個体が不妊であるサバ雑種集団を作出できると考えた。そこで日本各地のマサバとゴマサバの生殖細胞を集め代理親魚技術により、ドナー細胞を移植した宿主魚が生産する各系群の配偶子を用いる網羅的な交雑を実現し、完全不妊集団となる系群の組み合わせを見出すことを試みている。令和3年度までに、館山産マサバおよびゴマサバ、大分産マサバおよびゴマサバの組み合わせで雑種を作っているものの、必ずしも完全な不妊集団とならないことが示唆された。この結果から、完全不妊集団となるかいなかの組み合わせについては、系群の組み合わせではなく、個体レベルでの組み合わせに依存することが示唆された。また、複数のF1交雑家系の生殖腺の発達を組織学的に観察したところ、3ヶ月齢では全個体が生殖細胞欠損型の不妊魚様の生殖腺を有していても、12ヶ月齢では一部の個体で配偶子を生産しているF1雑種家系が存在した。この結果から、若齢時に生殖細胞欠損型不妊と観察されても、わずかに生殖細胞が残存しており、将来的に配偶子生産に寄与する可能性が示唆された。
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