研究課題/領域番号 |
19H03034
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
征矢野 清 長崎大学, 海洋未来イノベーション機構, 教授 (80260735)
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研究分担者 |
莚平 裕次 長崎大学, 海洋未来イノベーション機構, 特任研究員 (20806971)
村田 良介 長崎大学, 海洋未来イノベーション機構, 助教 (40809159)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 繁殖メカニズム / ハタ類 / 産卵関連行動 / 成熟誘起ホルモン |
研究実績の概要 |
本研究では、重要水産対象種であるハタ類の持続的利用を可能とするため、「天然海域におけるハタ類の繁殖特性と再生産機構を俯瞰的に理解する」ことをゴールとしている。2019年度は、カンモンハタをモデル種に用いて、実際の生息フィールドでの調査を中心に以下の研究を実施した。 1)沖縄県今帰仁漁港沖に広がるサンゴ礁池縁辺部の産卵場と推測される場所において、雌雄個体の集合状況や産卵状況をシュノーケリングにより観察した。その結果、満月の数日前に雌個体は産卵場へ蝟集を始め、満月の数日後から産卵に参加したのち、産卵場を離れることがわかった。しかし、雄は雌に先立って産卵場に移動しており、そこで、縄張りを形成していることがわかった。産卵場における産卵行動は水中ドローンにより撮影した。潮の流れが止まる時間に、雄が雌を追いかけ産卵する様子が確認された。 2)この産卵場への移動をバイオロギングにより確認した。生息場所で捕獲したカンモンハタの腹腔内にコード化ピンガー(個体識別可能な超音波発信器)を埋め込んだのち放流し、生息場所と産卵場に設置した受信機で個体の移動情報を取得した。その結果、目視観察と同様に、雌は生息場から産卵場への産卵回遊をすることがわかった。 3)産卵場で捕獲した個体の血中性ホルモン濃度を測定したとろ、雌性ホルモンも雄性ホルモンも産卵直前に増加し、産卵後には減少した。また生殖腺発達を組織学的に観察したところ、産卵場への移動に伴い卵黄形成過程から最終成熟期への変化が起こることがわかった。生殖腺重量の増加もこの時に起こることが確認された。 以上のように、初年度の目標としていた産卵場におけるカンモンハタの行動特性と産卵特性を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、沖縄県今帰仁漁港沖の産卵場においてカンモンハタの行動解析と蝟集した雌個体の生理状態の解析を行った。サンゴ礁池から縁辺部にかけてシュノーケルによる目視観察を行い、雌雄の蝟集状況と産卵直前の行動を記録することができた。また、産卵場で捕獲した個体を用いて、生殖腺の発達を組織学的および内分泌学的に解析し、卵母細胞の最終成熟は産卵場で開始されることを明らかにした。これらの調査は予定通りに実施でき、期待された情報も得ることができた。産卵行動の観察は、産卵時刻が夜であると推測されたことから、安全確保のため傭船した漁船を用い、水中ドローンとシュノーケリングにより行った。産卵行動は観察できたものの、水の濁りなどもあり、明確な映像を撮影することはできなかった。次年度の調査に向け、撮影方法を検討するという課題が残った。一方、バイオロギングにより行った行動観察であるが、生息場から産卵場への行動を記録することができた。しかし、2019年は大型の台風が沖縄本島に到来したことから、設置した受信機を一時的に回収する必要があり、生息場所への回帰データを十分に得るに至らなかった。また、受信機1台は、台風の影響により不明となった。2020年度は台風下でもデータを取得することができるように、設置場所と設置方法を再検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、計画書にあるとおり、再度沖縄県今帰仁漁港沖の産卵場において、産卵行動観察を行う。また、生息場所から産卵場への移動と回帰の情報をバイオロギングにより、確実に得ることとする。産卵場へは雄が早く到着することから、産卵場への移動における雌雄差も検討要因に加える。また、夜間の産卵行動を明確に捉えることができなかったことから、赤外線照射装置を利用した夜間撮影に挑戦する。2019年度は、生息場と産卵場において採集した個体を用いて、天然フィールドにおける生殖腺発達の変化を初めて明らかにすることができた。そこで、可能な限りより細かい間隔で生殖腺における最終成熟過程の変化を押さえるとともに、水槽実験により、天然では捕捉できない詳細な細胞レベルでの変化を解析を開始する。 ただし、2020年初頭よりはじまったコロナウイルスの感染拡大にともにない、沖縄での調査が実施できない状況が予想される。現地の漁協と連絡を取りながら、産卵時期に調査ができなかった際の対策を立てておく必要がある。現在、長崎大学には20尾ほどのカンモンハタを飼育していることから、それらを使った行動試験なども実施できる態勢を準備する予定である。
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