本研究の目的は、水産業の重要種であり、海洋生態系を支える重要な役割を担う大型褐藻類の有用タンパク質の機能実証である。褐藻の研究は、ゲノムおよび遺伝子情報が先行している状況にあり、タンパク質レベルでの研究は他の藻類と比較して遅れている。 本年度は、アルギン酸生合成の最終段階で作用し、マンヌロン酸(M)とグルロン酸(G)の配列を制御する酵素であるマンヌロン酸C-5エピメラーゼ(MC5E)候補タンパク質の機能解析を進めた。これまでに同酵素の性状が全く調べられていない褐藻のヒジキのタンパク質(HjC5-1)のcDNAクローンングを行い、組換え酵素(rHjC5-1)の生産に成功した。さらに、rHjC5-1がMをGへと変換するエピメラーゼ活性をもつことをタンパク質レベルで確認し、その酵素特性を解明した。その結果、HjC5-1はオキナワモズクのMC5Eと同様に高い熱安定性をもつことが分かった。 また、マコンブのMC5E候補タンパク質SjC5EについてもcDNAクローニングを行い、組換え酵素(rSjC5E)を得た。SjC5Eは、その一次構造からMをGへとエピマー化する活性をもつと推測されていたが、rSjC5Eにはそのような活性を検出することはできなかった。一方、実験の過程でアルギン酸を低分子化することを見出し、アルギン酸分解によって生じる不飽和単糖由来の化合物が蓄積することが分かった。そこで、分解活性を指標として酵素の性状解析を進め、アルギン酸の末端から単糖単位で脱離反応によって分解する活性をもつことを明らかにした。すなわち、SjC5Eはエキソ型切断様式をもつアルギン酸分解酵素であることをタンパク質レベルで示すことに成功した。 本研究の成果は、未知のタンパク質の機能をアミノ酸配列から推測するだけでは、褐藻の真の生物機能を理解することができないことを示唆するものであり、高い学術的意義をもつ。
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