これまで真骨魚の消化管内キチン膜形成を担うキチン合成経路に関連する情報基盤整備を進めており、モザンビークティラピアのキチン合成酵素(Chs1)タンパク質が真にキチンを合成することを示したが、その細胞内局在は不明であった。本年度はChs1に特異的な抗体を作製し、ティラピア腸管内でのChs1局在部位を同定した。その結果、Chs1は腸上皮細胞微絨毛膜に特異的に局在することが明らかとなり、その局在から細胞内小胞でキチン繊維を合成し、それを腸管腔内に放出するのではなく、腸管腔にむけて直接キチンを産生していることが明らかとなった。また給餌条件にキチン合成関連遺伝子の発現が応答することも示され、消化管内環境や個体の栄養状態によってキチン合成系そのものが制御されることが強く示唆された。このような応答はティラピアに限らず確認されたが、食性との関係については更なる検討を要する。腸管および内容物の走査型電子顕微鏡観察により、腸管内の微生物局在がキチン膜で包まれた内容物に限局する様子も観察され、キチン膜が腸管内で生体防御機構として機能していることを示す結果を得た。加えてハイドロゲルおよび樹脂包埋による観察により、キチン膜は粘液と何らかの形で協調して生体防御を担う可能性が示された。前年度までに開発されたキチン膜の組織学的検出法を用いて真骨魚類以外の魚類での腸管内キチン膜の存在を検討したところ下位条鰭類に属する魚種においてもその存在が確認され、これまでの結果と併せて、広範な魚種でキチン膜による腸管内生体防御が存在することが強く示唆された。
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