研究課題/領域番号 |
19H03043
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡田 茂 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (00224014)
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研究分担者 |
松永 茂樹 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (60183951)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Botryococcus braunii / 炭化水素 / 群体 / バイオポリマー / 生合成 / バイオ燃料 |
研究実績の概要 |
群体性微細緑藻Botryococcus brauniiは、他のバイオ燃料生産植物とは異なり、大量の液状炭化水素を生産し、細胞外に分泌する。しかし、細胞外に分泌された炭化水素は、群体を構築している親油性バイオポリマーに捕捉されてしまうため、単純な圧搾等による回収が難しく、本藻種を用いたバイオ燃料生産の観点からは、当該バイオポリマーは「やっかいもの」である。一方、当該バイオポリマーは、ゴム状の弾性を有しており、新規素材としての利用が期待できる。当該バイオポリマーは、直鎖脂肪族ジアルデヒドが、高度に重合した基本骨格から成るが、その形成メカニズムは不明である。そこで本研究では、本藻種におけるバイオポリマーの形成に関与する生合成遺伝子を明らかにし、有用生物素材の生産を可能にする新規酵素の取得とともに、有用炭化水素の回収が容易な、「非群体性」のB. brauniiの新株を作出するために必要な、基礎科学的知見の拡充を行うことを目的とする。 今年度は前年度に続き、比較的炭化水素組成が単純と考えられるB. brauniiのS品種の複数株につき、脂溶性成分の分析を行った。その結果、S品種は脂肪酸由来と考えられる直鎖状のアルケンに加えて、少量のテルペン系炭化水素も蓄積していることが明らかになった。また、複数のS品種に属する藻株について分析を行った結果、バイオポリマーの前駆体と考えられる、有機溶媒で抽出可能な比較的高分子の脂質の含量が、AあるいはB品種に比べて高い傾向が見られた。一方、S品種に属する複数の藻株についてトランスクリプトーム解析を行った。その結果、テルペン系炭化水素生合成関連遺伝子が発現していることが明らかになった。加えて直鎖脂肪族ジアルデヒドを生成するために必要な、脂肪酸の伸長反応に関与すると考えられる酵素遺伝子も確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度には試料量が限られていたため分析ができていなかった、B. brauniiのS品種に属する複数の藻株について、順調に培養することが可能になったことから、脂質組成の分析を行うことができた。また、コロナ禍に伴う緊急事態宣言等により、学生による研究にはかなりの制約が伴ったものの、B. brauniiからのRNAの調製法を改変することにより、上記、複数のS品種の藻株につき、良質なトランスクリプトームデータベースを構築することができた。当該データベース上では、テルペン系炭化水素生合成酵素遺伝子に加え、バイオポリマーの生成への関与が予想される酵素遺伝子も確認された。これらの情報により、バイポリマーの生成に関与する酵素の特定を、速やかに行う基盤が整ったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度は対数増殖期における藻体につきトランスクリプトーム解析を行った。RNAの調製法を改変したことにより、比較的少量の藻体試料から良質のトランスクリプトーム解析結果を得ることが可能になった。そこで今年度は、各種酵素阻害剤を添加する等、異なる環境下で培養したA、BおよびS品種に属する藻体につき、脂質組成および群体の性状を解析すると同時に、比較トランスクリプトーム解析を行う予定である。A、BおよびL品種間では、バイオポリマーの基本骨格は長鎖脂肪族ジアルデヒドのポリマーであるものの、構成成分が若干異なっている。S品種のバイポリマーは、L品種の物と類似していることが予想されることから、上記3品種間で一定レベルのアミノ酸配列の相同性を示し、他生物由来の脂肪鎖伸長酵素と類似性を示すタンパク質をコードする遺伝子に焦点を絞って解析を進めることで、バイポリマー生合成酵素遺伝子の特定を行う。特定された候補遺伝子を、代謝改変を行った大腸菌に導入し、蓄積される化合物を網羅的に解析することにより、当該酵素の機能同定を行う予定である。
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