研究課題/領域番号 |
19H03046
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
佐野 元彦 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (00372053)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ニジマス養殖 / ウイルス病 / 伝染性造血器壊死症 / 強毒化 / 強毒化要因 / 持続感染 / 再活性化 / 親魚ウイルス保有 |
研究実績の概要 |
本研究では、近年のIHNウイルス強毒化の要因を解明することを目的とし、① 毒力の異なる分離株の特性解明、② 毒力の異なる分離株の持続感染性、③養殖親魚のウイルス保有および疾病発生状況を検討する。 2019年度には、①:IHNウイルス分離株の4株(YN1311、NT1301、SO1304、TV1308)を選定し、ニジマス大型稚魚(平均魚体重13.5g)での感染実験で死亡率を調べ、それぞれ70%、10%、20%、0%となり、YN1311は強毒、それ以外は弱毒と判定した。4株のEPC細胞での増殖性や増殖温度では毒力と相関しなかったが、ニジマスの腎臓由来白血球での増殖性では強毒株での増殖が高かった。ウイルス接種後のニジマス腎臓のインターフェロン関連遺伝子を調べると、YN1311感染魚でも他のウイルスと同様に発現上昇することから、強毒株はインターフェロンの感受性が低いものと考えられた。4株のゲノムG遺伝子の配列では同じ“長野”系統に分類された。 ②:上記4株とニジマス大型稚魚での感染実験では、接種7日後では強毒株で高い魚体内ウイルス量を示したが、他のウイルス株では低い値であった。弱毒株3株は、接種12日、15日、25日後で、また強毒株では接種25日後に検出限界値以下となった。これ以降、経時的に5尾ずつを取り上げ、免疫抑制剤を5回投与したのち、ウイルス分離を行ったところ、弱毒のSO1304では接種44日後の個体3尾からウイルスを検出できたが、強毒株ではいずれの時点でも再分離されなかった。免疫抑制剤の投与により持続感染するウイルスを検出できることが判明した。 ③:県水産試験場の協力を得て、常法に従って飼育親魚の体腔液と精液を採集し、細胞での分離を行ったところ、雌で57/203、雄で18/80でウイルスが検出された。2016年から2018年に分離された近年のIHNウイルス分離株の収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①では、計画通り、ゲノムのG遺伝子配列では長野系統に属することが判明した4分離株について、ニジマス大型稚魚での感染試験で強毒株と弱毒株に分けた。その上で、増殖性などをin vitroとin vivoで調べ、in vitroでは白血球初代培養での増殖性が毒力と相関しそうなこと、強毒株は魚体内でインターフェロン関連遺伝子が上昇しているにもかかわらず、増殖性が高いことが判明した。これにより、インターフェロンに注目したin vitroのアッセイで毒力を大別できる可能性が示唆され、この方針でさらに解析を進めることができる。 ②では、計画通り、ウイルス感染耐過魚からのウイルス検出を行った。接種30日以降ではウイルスが直接分離できなくなるが、その後、免疫抑制剤を投与することによりウイルスが分離できるようになった。今まで稚魚期の感染耐過魚からはウイルスが分離できないとされていたが、この手法により持続感染ウイルスをとらえることが初めてできた。さらに効率よくウイルスを活性化し検出できる手法を開発していく。 ③では、計画通り、親魚からウイルス分離を試みた。ウイルスが比較的高率に分離でき、来年度からの毒力測定と特性試験が計画通りに行うことができる。抗生物質法での分離では、抗真菌剤を加えても、ほぼすべての分離培養でカビの繁茂が起こり、毒性も強いことからウイルス分離はできなかった。そこで、濾過法を用いるとカビの問題は全くなく、比較的大きなwellのプレートを使用することで接種量を増やすことができ、効率に良く分離ができた。さらに細胞の感度を上げる方法を試験する。
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今後の研究の推進方策 |
全体に計画通り進行しており、特段の問題はない。本年度の結果から①から③それぞれで試験の方向性を絞ることができた。その方向性で来年度も計画通り実施していく。 ①では、強毒株はニジマス魚体中でインターフェロン感受性が低く、白血球の初代培養での増殖性の良さもこのインターフェロン感受性と関連していると思われることから、インターフェロン感受性に注目して解析を進める。また、昨年度、親魚から多くのウイルスを分離できたので、これらも使って、毒力測定と増殖性等の特性試験を計画通り進める。 ②では、通常の方法では分離できなくなった感染耐過魚から免疫抑制剤の投与により、持続感染するウイルスを再活性化できた。来年度は、さらに採取した臓器を細胞と共培養することにより感度良く検出できるか検討を進める。 ③では、県水産試験場の協力を得て、さらに親魚からのウイルス分離を計画通り進める。体腔液サンプルからのカビの混入が極めてひどく、濾過法を用いざるを得ない。接種量を増やすことで感度を上げられたが、さらに薬剤で処理することにより細胞の感度を上げるなどの試験を行う。
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