研究課題
本研究では、近年のIHNウイルス強毒化の要因を解明することを目的とし、① 毒力の異なる分離株の特性解明、② 毒力の異なる分離株の持続感染性、③養殖親魚のウイルス保有および疾病発生状況を検討する。2021年度には、①:2019年の産卵親魚体腔液由来のウイルスの計8株を選定し、選抜育種していない熊谷系と選抜育種が進んだ富士養鱒場系のニジマス稚魚を用いた感染実験で死亡率を調べた。熊谷系に対して2株は強毒、6株は弱毒であった。しかし、この強毒2株も富士養鱒場系には致死性を示さなかった。一方、2019年の死亡稚魚由来8株は、富士養鱒場系に対し、2株は強毒、6株は中程度の毒力であった。体腔液由来よりも死亡魚由来のウイルスの方が毒力が高い傾向にあった。上記の体腔液由来の7株のゲノムシーケンス解析では、強毒に特徴的なアミノ酸モチーフは見いだせなかった。ニジマス腎臓白血球を分離し、ウイルスの増殖性を調べたが、培養が安定しなかった。Poly I:Cでインターフェロン(IFN)誘導したRTG-2細胞を用いて試験したところ、強毒株ではIFN誘導細胞でも増殖性が変わらなかったが、弱毒株ではIFN誘導時にはウイルス増殖がみられなかった。このアッセイ系は再現性が良く、ウイルスのもつ毒力のポテンシャルを判別できる可能性が高い。②:免疫抑制剤接種処理後、感染耐過魚からウイルス分離を行ったところ、死亡率の高かった感染群では回復直後の1.5か月でも分離できなかったが、死亡率の低い群では4か月後あるいは2か月後まで分離可能であった。死亡率が低い感染群で持続感染が成り立つ傾向が伺えた。③:収集ウイルスの中に遺伝子の組換えを起こした可能性のあるものが見つかった。親魚群(2歳)のウイルス保有調査を成熟前と産卵時に行った。その他、2021年のIHN死亡稚魚および生残魚、産卵魚体腔液からウイルス分離株の収集を行った。
2: おおむね順調に進展している
全体に計画通り進行している。①では、計画通り実施し、インターフェロン感受性を調べることで、毒力のポテンシャルは判別できることが判明した。さらに供試ウイルス株数を増やして検証を進める。ニジマス系統が変わると毒力も変わる現象では、初代培養も用いて毒力の判別アッセイ系の開発を進める。②では、計画通り実施し、感染時の累積死亡率が低い場合に持続感染が成り立つことが示唆された。実際に養殖業者が行う感染時も2-3割の死亡率であり、この状況がウイルス持続感染を助長している可能性が考えられた。さらに検証を進める。③では、計画通り実施し、県水産試験場の協力を得て、産卵親魚、死亡稚魚・生残稚魚のウイルスを収集するとともに、産卵親魚で活性化してくる過程のウイルス動態の分析を開始した。さらに、ウイルスの塩基置換による変異に加え、2つのウイルスが同時に感染して起こる組換えが起こっている可能性が示唆された。日本におけるIHNウイルスの多様性の高さを説明する重要なことであり、さらに検証を進める。
今年度、計画に沿って実施した。さらに来年度も計画通り実施していく。①では、RTG-2細胞を用いたアッセイ系で、弱毒株はインターフェロン感受性が高く、判別できることが判明した。さらに今まで収集した株を供試し、確認する。ただし、供試ニジマス系統により毒力が変化するため、これを判別できる系を構築する必要もあり、各ニジマス系統から初代細胞を作出して判別系の構築を試みる。また、収集した種々のウイルス株も使って、毒力測定と増殖性等の特性試験を計画通り進める。ゲノムの各遺伝子配列の比較では、強毒株に特徴的なアミノ酸配列は見いだされなかったが、さらに詳細な分析を進める。②では、通常の方法では分離できなくなった感染耐過魚から免疫抑制剤の投与により、持続感染するウイルスを再活性化でき、低い死亡率のケースで持続感染が起こることが示唆され、ウイルスの毒力よりも感染累積死亡率が影響すると推測された。今後、さらに死亡率と持続感染の関係について検証を進める。③では、県水産試験場の協力を得て、産卵親魚中でウイルスがどのように再活性化するのか、その動態を詳細に調べる。さらに、培養細胞に2種類のウイルス株を同時感染させ、組換えが起こり、ハイブリッドウイルスが生成されるか試験する。
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