研究課題/領域番号 |
19H03051
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
荒川 修 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (40232037)
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研究分担者 |
高谷 智裕 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (90304972)
山口 健一 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 准教授 (90363473)
山田 明徳 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 准教授 (40378774)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | テトロドトキシン / 麻痺性貝毒 / サキシトキシン / トリブチルスズ結合タンパク質 / TBT-bp2 / トラフグ / Pao cochinchinensis / Pao abei |
研究実績の概要 |
まず、in vitro組織切片培養法により、トラフグ各組織のテトロドトキシン(TTX)取り込み能について検討した。無毒養殖トラフグの肝臓、皮、腸から組織切片を作成し、TTXを含む培養液で1~48時間培養後、各切片のTTX含量を測定したところ、いずれの組織も切片のTTX含量は経時的に増加した。皮と腸の切片のTTX含量は、総じて肝臓切片と同様の推移を示したことから、ともに肝臓と同様のTTX取り込み能をもつことが示唆された。トラフグの幼魚と成魚につき、同様の組織切片培養実験を行ったところ、幼魚の皮は成魚の約2倍のTTXを取り込んだ。免疫組織化学的手法を用いて組織切片中のTTX微細分布を観察したところ、TTXは肝臓では膵組織から肝細胞へ、皮では結合組織から基底細胞へ、腸では絨毛の上皮細胞から粘膜固有層を経て筋肉層に移行・蓄積するものと推察された。 一方、2019年11月にカンボジアで採取した淡水フグ16個体につき、鰭からDNAを抽出し、16S rRNA、COⅠ、CytB、ロドプシン、およびトリブチルスズ結合タンパク質(TBT-bp2)の各遺伝子をPCRで増幅後、塩基配列を解析した。各配列から系統樹を作成して検討した結果、TBT-bp2の配列から試料16個体を3群、すなわちPao cochinchinensis(9個体)、Pao abei(4個体)、およびこれら2種の交雑個体(3個体)に分けるのが妥当と判断された。一方、部位毎に麻痺性貝毒(PST)とTTXの含量を測定したところ、いずれの群もサキシトキシンを主成分とするPSTのみ保有していたが、毒性は群により異なり、P. cochinchinensisは高毒性種、P. abeiは低毒性種で、交雑個体はその中間の毒性をもつものと推察された。したがって、淡水フグのPST蓄積能にはTBT-bpが関与する可能性のあることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肝臓組織を対象にNagashima ら(2003)が開発したin vitro組織切片培養法を皮および腸組織にも適用することにより、トラフグの皮と腸は肝臓と同様のTTX取り込み能をもつこと、幼魚の皮のTTX取り込み能は成魚のそれより高いことを初めて明確に示すとともに、免疫組織化学的手法により各組織切片中のTTX微細分布の経時変化を可視化することに成功した。したがって、培養組織切片を用いるex vivo毒投与の手法は、今後、本研究を進めるうえで、強力なツールになり得るものと考えられる。 一方、今回、淡水フグの組織切片培養実験は行わなかったが、カンボジア産淡水フグについて遺伝子解析と毒の分析を同時に実施することで、淡水フグの種によるPST蓄積能の相違にTBT-bpが関与する可能性があることを初めて示唆することができた。TBT-bpは、海産有毒フグが保有するTTX/PST結合性タンパク質アイソフォーム(Tr)群の進化的起源と推定されており、淡水フグの選択的なPST取り込み・蓄積に関わる有力な候補分子と考えられる。 以上から、本研究課題の進捗状況については、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に従い、淡水フグの無毒養殖個体から各組織の組織切片を作成し、TTX/PSTの取り込み実験を行うとともに、トラフグを用いてTrの膜受容体・TTXトランスポーターの探索を試みる。一方、今年度の研究により、淡水フグのPST蓄積にTBT-bpが関与することが新たに示唆され、主にTTXを保有するTakifugu属の海産フグはTr群を介してTTXを、PSTを保有するPao属等の淡水フグはTBT-bpを介してPSTを選択的に蓄積するものと推察されたことから、来年度はTTXとPSTを同時に保有するArothron属やCanthigaster属の海産フグを対象に遺伝子解析と毒性分析を行い、Tr群とTBT-bpの有無ないし発現プロファイルと毒性の関係について検討する。
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