研究課題/領域番号 |
19H03051
|
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
荒川 修 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (40232037)
|
研究分担者 |
山田 明徳 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 准教授 (40378774)
高谷 智裕 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (90304972)
山口 健一 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (90363473)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | テトロドトキシン / 麻痺性貝毒 / Canthigaster属 / キタマクラ / フグ毒結合タンパク質 / PSTBP |
研究実績の概要 |
昨年度の研究により、キタマクラ属のシマキンチャクフグは、テトロドトキシン(TTX)と麻痺性貝毒(PST)を同時に保有することが示された。今年度は、まず同属のキタマクラにつき、毒組成の再分析を行ったところ、既報とは異なり、TTXに加えて多量のPST(総毒量の0.4-99.5%)を保有することがわかった。特に長崎市為石では8個体中6個体がPSTを主成分としていた。関連して、TTXとPSTを同時に保有するウモレオウギガニにつき、単一リーフ内におけるTTX/PST組成の地理的差異を明らかにした。 一方、フグ目6科15種17個体から得たシーケンスリード、およびデータベース上のフグ目394個体のシーケンスリードを対象にゲノム解析を行ったところ、フグ毒結合タンパク質(PSTBP)遺伝子は、TTXを蓄積するフグ科のトラフグ属10種、キタマクラ属2種、およびモヨウフグ属11種のみに分布しており、TTXを蓄積しない種(フグ科でPSTのみを蓄積するPao属3種とLeiodon属1種、無毒のサバフグ属1種、およびハリセンボン科、ハコフグ科、マンボウ科、カワハギ科、モンガラカワハギ科の計8種)はこの遺伝子をもたないことがわかった。 他方、PSTBPアイソフォーム(Tr)群の膜受容体・TTXトランスポーターの探索に先立ち、レクチンカラムを用いてTr群を分離・エンリッチ化し、脱糖鎖処理を組み合わせた質量分析により化学構造の解析を試みたところ、Tr群はシアル酸を末端に有するコンプレックス型糖鎖をもつこと、78-120 kDaの3種のTrアイソフォームは、リポカリンドメインの3回繰り返し配列をもつPSTBP1-like isoform(P1-i)遺伝子の産物であること、脱糖鎖処理により得られた7つのバンドは、いずれもP1-i遺伝子に由来するがプロセシング/翻訳後修飾の異なる産物であること、などが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は淡水フグの無毒養殖個体が手に入らず、組織切片培養実験は行えなかったが、以下のとおり他の項目で進展があった。 これまでキタマクラは、TTXを毒の主体とし、PSTは微量にしかもたないとされていたが、今回、まずそれが覆され、キタマクラもシマキンチャクフグ同様、TTXとPSTを同時に保有することが示された。すなわち、キタマクラ属はトラフグ属よりモヨウフグ属に近い毒選択性をもつことが明確となった。キタマクラは、予想外に多量のPSTを保有しており、遺伝的な毒選択性に加えてPSTの起源生物に新たな興味がもたれた。 一方、今年度までに、トラフグ属、キタマクラ属、モヨウフグ属、サバフグ属、Pao属、Leiodon属、およびDichotomyctere属の一部の種について、TTX/PST組成とPSTBP遺伝子の分布に関する情報を集積することができた。現時点で、PSTBP遺伝子の分布はTTXの蓄積とよく一致しており、TTXを蓄積する種のみがこの遺伝子を有する。さらに、同種でも個体間でPSTBPのコピー数が大きく異なることもわかった。PSTBPがTTXの蓄積に決定的な役割を担っているとすれば、コピー数の相違は毒蓄積能の個体差に反映される可能性がある。今後、さらに多様なフグ種について、PSTBPのみならず、PST蓄積への関与が示唆されているトリブチルスズ結合タンパク質(TBT-bp)の有無を調べて、それらとTTX/PST組成を照らし合わせて解析することで、フグの毒吸収・輸送・蓄積に関わる分子機構の全容がみえてくるものと思われる。 他方、今回、Trの膜受容体・TTXトランスポーターの探索は、準備が不十分で行えなかったが、Tr群を分離・エンリッチ化する手法を確立するとともに、化学構造の一端を解明することができた。 以上から、本研究課題の進捗状況については、おおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
もし可能であれば、TTXとPSTを同時に保有するキタマクラ属もしくはモヨウフグ属のフグについて、無毒養殖個体の作出を海響館、海遊館などの水族館に依頼する。それらの個体、もしくは天然個体を用いて毒投与実験または組織切片培養実験を行い、TTX/PST選択性を調べて、トラフグ属海産フグや淡水フグと対比する。また、キタマクラを対象に、消化管内要物の検索などを行い、PSTの起源生物についても検討する。 一方、毒組成に関する知見がほとんどないTorquigener属、Tetractenos属などのフグ種を対象に遺伝子解析と毒分析を行い、Tr群とTBT-bpの有無ないし発現プロファイルと毒性の関係について、これまで集積してきたデータと併せて検討するとともに、トラフグ属を中心に、PSTBP遺伝子のコピー数と毒蓄積量を個体毎に対比する形で調べて、両者の関係を明らかにする。また、新たに毒に対する耐性という観点から、TTX/PST耐性ナトリウムチャネルの有無についても検討する。 他方、今年度の研究で得られたTr群に関する知見を基盤として、Trの膜受容体・TTXトランスポーターの探索を試みる。また、新たにTr群のペプチド抗体を調製することができたので、フグの多様な組織についてTr群の微細分布を可視化し、それらの発現動態や機能を究明する。
|