研究課題
熱帯・亜熱帯の浅海域に生息する魚類の多くは月周性の産卵周期を持ち、月一回の産卵を種ごとに決まった月相で繰り返す。月から得られる周期的な環境情報を約一ヵ月周期の内因性の情報に伝達する機構については不明な点が多い。本研究は、松果体と間脳域(視交叉上核)に着目し、ハタ科魚類の概日時計を司る主時計の局在と概月性を司るタイマー型砂時計の実体の解明を目的として行われた。研究開始2年目にあたる当該年度において以下の結果を得た。特に、時計遺伝子のうちのCryptochrome(Cry)遺伝子に着目し、日周性と月周性の発現変動に関して研究を行った。(1) ヤイトハタの脳からクローニングしたCry(Cry1, Cry2, Cry3)遺伝子を分子系統解析した結果、本研究で単離された遺伝子は脊椎動物のCryにクラスターされ、ヤイトハタのCry遺伝子と同定された。定量PCRでこれらの遺伝子の組織発現を比較した結果、いずれのisoformも中枢神経(眼球や脳内)に多く発現していた。In-situ hybridizationで遺伝子発現の局在を調べた結果、脳下垂体にCry2の発現が認められた。(2) 3つのCryのisoformのうち、Cry1とCry2は間脳や終脳において日周変動しており、明期に高く暗期に低くなった。(3)各月相(新月、上弦の月、満月、下弦の月)におけるCry遺伝子の発現を調べた結果、脳下垂体を含む間脳域においてCry2の日周変動のみが月相間で差が認められ、この遺伝子の発現振幅は新月時に高くなった。以上の結果から、Cry2遺伝子が日周変動と月周変動を繰り返すことが判明し、この遺伝子が月周性の時刻合わせ機構の一端を担っている可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
当初計画では概日リズムを司る時計遺伝子のクローニングとマスタークロックの部位特定から開始することにしていた。ターゲットにしていたPeriodとCryの両遺伝子の特性を明らかにできていることから、当該年度内に当初目的をほぼ達成した。したがって、本研究は計画通り進んでいると判断する。
研究の最終年度では、Period及びCry遺伝子の特性を更に調べるとともに、夜間光操作実験を織り込むことによって本研究の中心課題となる概月時計の発振機構を日周時計の発振機構と比較しながら解明する研究に取りかかる。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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