熱帯・亜熱帯の浅海域に生息する魚類の多くは月周性の産卵周期を持ち、月一回の産卵を種ごとに決まった月相で繰り返す。月から得られる周期的な環境情報を約一ヵ月周期の内因性の情報に伝達する機構については不明な点が多い。本研究は、ハタ科魚類(ヤイトハタ:新月に産卵を繰り返す)の概日時計を司る主時計の局在と概月性を司るタイマー型砂時計の実体の解明を目的として行われた。 (1)ヤイトハタの脳内(脳下垂体、視交叉上核、松果体)における概日時計遺伝子(per2およびcry2)の昼夜変動を定量PCRで明らかにした。明暗条件下(明期13時間、暗期11時間)で飼育した魚の脳下垂体と松果体におけるper2およびcry2遺伝子の発現量を測定した。その結果、脳下垂体においては昼に高く、夜に低くなった。松果体の両遺伝子発現量も昼に高く、夜に低くなる傾向があった。なお、視交叉上核における両遺伝子の発現をin-situ hybridization 法で確認しようとしたが、明確なシグナルは得られなかった。 (2)ヤイトハタの脳下垂体と松果体のper2とcry2の昼夜変動における自律振動性を定量PCRで調べた。明暗条件下(明期13時間、暗期11時間)で馴致後に恒暗条件下へと切り替えた魚の脳下垂体におけるper2の昼夜変動が消失した。一方、cry2は夜に高く、昼に低くなった。松果体における両遺伝子の昼夜変動は消失した。 以上の実験の結果から、ヤイトハタの脳内における時計遺伝子per2とcry2は脳下垂体と松果体において昼夜変動を示し、それぞれの脳領域については異なった転写制御を受けている可能性が考えられた。
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