研究課題/領域番号 |
19H03072
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
原田 直樹 新潟大学, 自然科学系, 教授 (50452066)
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研究分担者 |
鈴木 一輝 新潟大学, 研究推進機構, 助教 (40801775)
吉川 夏樹 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (90447615)
宮津 進 新潟大学, 農学部, 助教 (30757844)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 放射性セシウム / イネ / 灌漑水 / 水口 |
研究実績の概要 |
福島第一原子力発電所事故以降,灌漑水と共に水田に流入する放射性セシウム(rCs)のイネへの影響についてはほぼ無視されてきた。しかし,我々の先行研究の結果,水口付近のイネ(玄米及び稲わら)のrCs濃度が水田内の他地点より有意に高いことが見出され,また非汚染土壌で栽培したイネであっても,水口に置くと現地土壌で育てたイネとほぼ同程度のrCs汚染が生じることが明らかとなった。以上の事実は,rCsを低濃度で含む灌漑水の流入は,水口イネへのrCs移行に直接的,間接的に影響することを示している。そこで本研究では,灌漑水中の137Csに焦点をあて,その存在形態を追究することに加えて,水田流入後の懸濁態及び溶存態137Csの挙動を調べ,またイネへの137Cs吸収へと至るメカニズムを明らかにすることで,水田における「水→土壌→イネ」に至る137Csの動態を理解することを目的としている。2019年度は,課題1として灌漑水由来137Csの挙動調査を福島県浜通り地域の3地区で行った。その結果,灌漑水中の溶存態及び懸濁態137Cs濃度の季節変動や経年変化を明らかにし,また通水初年度の用水路の通過によって用水中の137Cs濃度が上昇する可能性が示された。また,137Csをほとんど含まない新潟土壌を充填した模擬水田におけるイネ栽培試験を実施し,灌漑水とともに流入する137Csの約6割が模擬水田内に沈着することが分かり,また土壌中の137Csよりも用水中の137Csの方がイネに移行し易いことが示唆された。さらに数万Bq kg-1の137Csを含む粗大浮遊物の流入が現地水田で観察された。課題2として灌漑水由来137Csのイネへの移行メカニズム解明をトレーサー実験で目指した。137Csはイネの基部からも体内に移行し,収穫時には籾に分布することが確認された。特に出穂期に吸収された137Csは籾に移行し易かった。2020年度も引き続き,現地調査とポット試験等により前述の2課題を検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【課題1】灌漑水由来137Csの挙動の調査 2019年までの3年間に渡って,福島県浜通り地域の3地区において灌漑水試料を定期的に採取し,溶存態及び懸濁態137Cs濃度を測定した結果,いずれも灌漑期にあたる夏季に溶存態137Csの上昇が認められた。また水試料中の溶存態及び懸濁態137Cs濃度は共に年々減少傾向にあり,その減衰率は理論値よりも大きかった。通水初年度の用水路を通過することにより,用水中137Cs濃度が上昇する可能性が示された。大柿ダム下流にある浪江町の水田に5×5 mの模擬水田を設けて137Csをほとんど含まない新潟土壌を充填し,現地の用水を灌漑してイネを栽培した。収穫後の水田表層への137Csの沈着量を調べた結果,総137Cs流入量の約6割が模擬水田内に沈着することが分かった。イネからは周辺の現地水田と同程度の濃度の137Csが検出され,土壌に含まれる137Csよりも用水中の137Csの方がイネに移行し易いことが示唆された。さらに数万Bq kg-1の137Csを含む粗大浮遊物の流入が現地水田で観察されたことから,その起源の解明が新たな課題となった。 【課題2】灌漑水由来137Csのイネへの移行メカニズム解明 溶存態137Csのイネ基部からの吸収をトレーサー実験にて調べた。栄養生長期及び出穂期のイネの基部に137Cs溶液を付加した結果,137Csがイネ体内に移行し,収穫時には籾に分布することをイメージングプレートで確認した。栄養生長期に基部から137Csが吸収された場合は第1葉に,根部からの場合は根に留まる傾向にあったが,出穂期では吸収部位にかかわらず籾に移行し易かった。また,土壌表層に堆積した懸濁態137Csのイネへの移行を調べるため,作土層厚を調整したポットでイネを栽培し,137Cs吸収への影響を調べた他,懸濁態137Csの付加位置(深さ)の影響についても試験した。いずれも今後,収穫時に採取したイネの137Cs濃度の測定を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,灌漑水から流入する溶存態および懸濁態137Csの水田内での水平移動のシミュレーションモデルを現地調査に基づいて作成し,また各化学形態の137Csのイネへの吸収メカニズムを解明することを通して,水田における「水→土壌→イネ」に至る137Csの動態を仔細に明らかにすることを目的とする。そのため初年度からの2年間においては,①灌漑水由来137Csの水田内挙動の調査とモデル化,および,②灌漑水由来137Csのイネへの移行メカニズム解明,を目指す。そのため,2020年度は次の試験を行う。 〇昨年度収集した灌漑水中の浮遊物質(SS)について,電子線マイクロアナライザによる形態観察や元素組成分析と合わせて化学形態の季節変動を推定し,含まれる粘土鉱物種をX線結晶構造解析で調べる。また回収したSS中の137Csの化学形態分析を実施する。 〇現地圃場(浪江町等)の用水路の壁面から付着物を定期的に採取し,137Csの蓄積について調査するとともに,灌漑水とともに流入する粗大浮遊物をトラップで回収して,粗大浮遊物として水田へ付加される137Cs量を推定する。また,付着物や流入物の同定を進める。 〇溶存態及びイオン交換態137Csを除いたSS,さらに有機物結合態までの 137Csを除いたSSを調製し,新潟土壌を用いてポット栽培したイネの移植時,中干時あるいは出穂期に土壌の表面に施用して収穫した玄米中の137Cs濃度を比較する。
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