研究課題/領域番号 |
19H03073
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤原 正幸 京都大学, 農学研究科, 教授 (40253322)
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研究分担者 |
一恩 英二 石川県立大学, 生物資源環境学部, 教授 (10320912)
泉 智揮 愛媛大学, 農学研究科, 准教授 (40574372)
泉 完 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (60132007)
吉岡 秀和 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 助教 (70752161)
長野 峻介 石川県立大学, 生物資源環境学部, 講師 (90646978)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 魚類移動 / 水域ネットワーク / 数値流体力学 / 魚道 / 落差工 / 手取川 / 斐伊川 / バイオテレメトリー |
研究実績の概要 |
水域(河川・水路)ネットワークについての生態学的な観点からの機能評価では,横断構造物が魚類の遊泳行動に与える影響の定量化が最重要項目のひとつである.これまでは,構造物に設置された魚道における流れと魚類行動の解析などのように魚道に着目した研究と,魚道を明示的に考えないネットワークスケールでの研究が別個になされてきた.本研究では,魚道の内部および近傍における水の流れと魚類の遊泳行動というミクロな情報を,水域ネットワークスケールのマクロな情報と融合する接近手法に基づき,合理的かつ効率的に魚類の回遊をシミュレートできる新しい数理モデルを構築することを目的としている. 研究初年度である2019年度は,水域ネットワークスケールの研究対象地として,石川県の手取川七ヶ用水の一部である山島用水を選定し,魚類の移動に与える落差工の影響を明らかにするため,採取した魚にPITタグを取り付け,水路内に設置したタグアンテナによって,秋季と冬季における移動状況を調査した.また,実験水路を用いて魚類の遡上能力に関する基礎的な実験も行った.さらに,島根県斐伊川を代替サイトとして研究を進め,アユの成長ダイナミックスを定量化するとともに,漁業協同組合の広報雑誌や高大連携事業において本研究の成果をわかりやすく紹介するなど,アウトリーチ活動も着実に進めている. 魚道周辺を対象としてミクロスケールモデルに関しては,格子法及び粒子法の手法を用いて,階段式魚道,バーティカルスロット式魚道等複数の魚道形式の流れのモデル化を行った. 水域ネットワーク全体と対象とするマクロスケールモデルにおいては,平均場近似の概念を応用したモデル化を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミクロスケールモデルについては,格子法において階段式魚道,バーティカルスロット式魚道,粗石付き斜路式魚道について,粒子法において階段式魚道とバーティカルスロット式魚道について,水の流れを再現するモデルを構築した.モデルの検証は過去に行われた水理模型実験や現地調査のデータにより実施した. マクロスケールモデルについては,水域ネットワークにおける魚類の移動分散を,ミクロスケールモデルから得られる情報を組み込みながら,効率的に追跡するための数理モデルを構築するための基盤を整備した.とくに,魚類の回遊をマクロな観点から一貫的に記述できる準変分不等式を見出した.また,派生する成果として,魚類に限らず,生物個体群のダイナミックスのモデリングや制御に関するモデリングの数値計算の知見も得た. 基礎及び検証データの収集のため,実験水路を用いて魚類の遡上能力に関する基礎的な実験を行った.また,水域ネットワークスケールの研究対象地として,石川県の手取川七ヶ用水の一部である山島用水に焦点を絞り,数十箇所設置されている落差工の魚道が魚の移動分散に与える影響を調べた.用水路内の魚類(カマツカ,ドンコ,ドジョウ,スミウキゴリ,タカハヤ,アブラハヤなど)の移動分散状況や現存量をPITタグを用いたバイオテレメトリー手法により調査した.特に秋季において施設維持管理のため1週間ほど用水が止められた機会を最大限に利用して,落差工直下の水叩き部を中心に魚類の採集を行って,PITタグのデータの読み取りとタグの装着を実施した.さらに,島根県斐伊川を代替サイトとして研究を進め,アユの成長ダイナミックスを定量化した.
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今後の研究の推進方策 |
ミクロスケールモデルについては,格子法および粒子法において,階段式魚道,バーティカルスロット式魚道,粗石付き斜路式魚道について,魚の遊泳行動を表現するモデルを構築する.従来研究や現地調査結果をもとに,まず,一個体の遊泳モデルを構築し,次に,魚類個体間に作用する引力と反発力を考慮できる遊泳モデルについて検討する. マクロスケールモデルについては,ネットワーク領域における魚群の移動分散現象を簡素かつ不確実性を鑑みながらシミュレートできる数理モデルの定式化を試みる.例えば,確率微分方程式や確率偏微分方程式に依拠して行う.不確実性の評価については,変分的な概念を汲む,multiplier robust controlの概念を応用することを検討する. 基礎及び検証データの収集のための実験及び現地観測としては,実験水路を用いた魚類の遡上能力に関する基礎的な実験と,石川県の手取川七ヶ用水の一部である山島用水における調査を継続する.今年度はPITタグをさらに多くの魚類に取り付けることにより,データを蓄積する.また,手取川と七ヶ用水の両方に生息するアユ,ウグイ,オオヨシノボリなど,手取川と七ヶ用水の両方に生息する魚類については,ヒレの一部を切り取った液浸標本を作製して遺伝情報を解析し,得られた遺伝的距離や遺伝的多様性などを手掛かりとして,取水口からの魚類の迷入量を推定する.また,アユに関しては,手取川産の天然アユと人工アユを遺伝情報で判別することが困難であることから,側線上方横列鱗数の計数を行って,その鱗数もアユの移動状況推定の資料とする.
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