研究課題/領域番号 |
19H03083
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
羽田野 麻理 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 東北農業研究センター, 上級研究員 (00343971)
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研究分担者 |
藤村 恵人 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 東北農業研究センター, グループ長 (70560639)
松波 麻耶 岩手大学, 農学部, 助教 (40740270)
石川 淳子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 次世代作物開発研究センター, チーム長 (40343959)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | イネ / カリウム / セシウム / 移行低減 |
研究実績の概要 |
作物への放射性物質の移行抑制のため、原発事故被災地域ではカリ肥料の増施が続けられてきた。しかし長期的にカリを多量施用することはコストと労力の面で大きな負担となるため、カリウムの投入を減らしつつ確実に移行抑制できる技術が求められている。本研究では、イネの生長にともなう根からのカリウム吸収増大が土壌中のカリウムレベルの低下を介してセシウム吸収を促進する可能性に着目し、イネのセシウムとカリウム吸収を解析する栽培実験で得られたデータに基づき、イネのセシウム吸収が促進される複数の要因を整理した概念モデルを構築するとともに、セシウム吸収を効果的に抑制することが可能な施肥・栽培法を探索する。 本年度(令和2年度)は、Cs吸収特性の異なる水稲品種を異なるカリ施肥条件で栽培した実験結果と、イネのセシウム吸収に関する文献情報に基づき、イネの根からのセシウム吸収と可食部(玄米)への移行に関与する、土壌の要因と植物の要因の関係を概念モデル(作業仮説)として試案した。その概要は以下の通りである。「イネの栄養生長にともない土壌からのカリ吸収が急増し、生育中期に水田土壌中の可給態カリ濃度が低下すると、土壌中のK+とCs+の拮抗作用により根からのセシウム吸収速度が増加する。また植物のカリウム欠乏に対する生理応答として、イネの根でCs吸収を主導するカリウム輸送関連遺伝子群の発現量が高まる。これらの作用の結果、土壌からのセシウム吸収速度が生育中期に著しく高まり、最終的に玄米中のCs濃度が上昇する。」
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度当初に設定した研究計画に沿って、これまでの栽培実験等で得られた試料・データの分析ならびに文献調査を行った結果、イネの根からのセシウム吸収と可食部(玄米)への移行に関与する、土壌側と作物側の要因を整理することができた。現地圃場で得られたデータも含めて、イネのセシウム吸収とカリウム吸収の関係等について研究分担者と代表者の間で議論を重ねた結果、最終年度(令和3年度)に予定している水稲のセシウム吸収を効果的に抑制できるカリ施肥法の探索のための準備を進めることもできた。これらの状況をふまえ、本研究は順調に進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
3年間で得られた知見を集約し、イネのカリウム・セシウム吸収に関する概念モデルをブラッシュアップするとともに、イネのセシウム吸収を効果的に抑制することが可能なカリ肥料の施用時期・施肥法等を探索する。概念モデルについては、これまでに実施した水稲品種の実験を通じて当初の仮説(イネの生長にともなうKデマンド・吸収量の増大が土壌要因と作物要因の双方からCs吸収を著しく促進するという仮説)を支持するデータが集まりつつある。そこで本年度は、イネのKとCsの吸収・蓄積に関する解析範囲の拡大を試み事例を蓄積することによって仮説の検証を進める。また本研究の特長であるフィールド環境下のイネの根系機能解析として水田における根の遺伝子発現応答性の調査も引き続き進める。そして、得られた一連の知見に基づきイネのCs吸収を効果的に抑制する施肥法を探求する。研究代表者(羽田野)は、上記の課題に分担者と連携して取り組むとともに研究のとりまとめを行う。得られた結果については、必要な場合には協力者の支援を仰ぎながら参画者で議論を深め、本研究の完成を目指す。
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