研究課題
植物が同じ種内でもストレス耐性を持つ植物と持たない植物に分かれてきた進化的要因や、その背景でどんな遺伝子が働いているのかに関しては多くが不明である。本研究では、シロイヌナズナaccession間に見られる浸透圧耐性および高温耐性の遺伝的多様性から植物のストレス適応メカニズムを理解することを目的に、多様性を決定する鍵遺伝子の同定、および鍵遺伝子を中心とする耐性メカニズムの解明を目指している。先行研究において、短期高温ストレスを示す accessionが必ずしも長期高温ストレス耐性を示さず、それぞれの耐性は独立したメカニズムによることが示唆された。本年度は長期的な高温ストレスに曝した際の多様性に関する研究で特に成果が得られた。高い長期高温耐性を示すaccessionがどのようなメカニズムにより耐性を獲得しているのかを明らかとするために、実験accessionとして広く用いられるCol-0に対して、顕著な長期高温耐性を示すBs-2およびBs-2近縁のaccessionを用いて、シロイヌナズナにおける長期高温耐性メカニズムの解明を試みた。様々な生理学的試験の結果、短期高温ストレス下ではH2O2の蓄積増加は認められないものの、長期高温ストレス下では経時的にH2O2が蓄積したことから、長期高温ストレス時にROS消去が重要であることが示唆された。またBs-2はCol-0と比較して酸化ストレスに耐性を示すことが明らかとなった。ROS消去に関わる抗酸化酵素をコードする遺伝子のうち、どの遺伝子が長期あるいは短期高温耐性に寄与するのかを調べるために、Col-0のT-DNA挿入変異株を長期・短期高温耐性試験に供した。その結果、ある1つの遺伝子が長期高温ストレス耐性に重要であることが明らかとなった。本成果について現在、論文投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
最も重要な成果として、高温ストレス耐性のシロイヌナズナ種内多様性に関する研究がまとまり、論文を投稿するに至った。この他、浸透圧ストレスに関する研究においても獲得した変異株の原因遺伝子が明らかになるなど、進捗が見られた。また、本研究では4名の研究協力者に参画頂いているが、先の論文における集団遺伝学的解析に協力頂いた。また高温耐性の多様性に関する研究成果において病害応答に関連する可能性が生じたため、それについても研究協力者に病害耐性を評価して頂くなど、4名それぞれの研究協力者から本研究プロジェクトを推進する重要な成果を頂くことが出来た。以上より、「おおむね順調に進展している」とした。
本研究では、シロイヌナズナaccession間に見られる浸透圧耐性および高温耐性の遺伝的多様性から植物のストレス適応メカニズムを理解することを目的に、次の課題に取り組んでいる。1)塩馴化後浸透圧耐性欠損株の単離と解析、2)浸透圧耐性の多様性決定遺伝子ACQOSが浸透圧を認識するメカニズムの解明、3)閉鎖系における高温耐性多様性を制御する遺伝子座の同定と機能解析、4)開放系における高温耐性多様性を制御する遺伝子座の同定と機能解析、5)上記同定遺伝子などのトマトおよびイネへの応用、特に実りへの影響検証。本年度については3)について特に成果が得られたが、その他それぞれを進める。3)については突然変異株を用いた研究をスタートさせた。実験accessionとして広く用いられるCol-0はシロイヌナズナaccession間において長期高温ストレスに比較的耐性を示すaccessionであった。これまでにCol-0由来の高温感受性変異株の単離およびその原因遺伝子同定について報告はあるものの、その数は限られており、未同定の高温耐性寄与遺伝子が残されていると考えられた。そこで長期高温耐性メカニズムの解明を目的に、Col-0種子をEMS処理により突然変異を誘発させたM2種子を用いて長期高温感受性変異株のスクリーニングを行った。M2種子5000粒をスクリーニングした結果、4つの長期高温感受性変異株を単離した。今後はこの得られた変異株について原因遺伝子の特定を含む遺伝学的解析を進めることで、長期高温ストレス応答に重要な遺伝子を明らかにするとともにそのメカニズムの解明を試みる。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Nature Communications
巻: 10 ページ: 1-13
10.1038/s41467-019-08479-5
Communications Biology
巻: 2 ページ: 1-13
10.1038/s42003-019-0281-1