研究課題/領域番号 |
19H03092
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
太治 輝昭 東京農業大学, 生命科学部, 教授 (60360583)
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研究分担者 |
有賀 裕剛 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 遺伝資源センター, 研究員 (00849060)
西條 雄介 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (50587764)
土松 隆志 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (60740107)
星川 健 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター, 生物資源・利用領域, 任期付研究員 (70634715)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 浸透圧耐性 / 高温耐性 / シロイヌナズナ / accession / 多様性 |
研究実績の概要 |
植物が同じ種内でもストレス耐性を持つ植物と持たない植物に分かれてきた進化的要因や、その背景でどんな遺伝子が働いているのかに関しては多くが不明である。本研究では、シロイヌナズナaccession間に見られる浸透圧耐性および高温耐性の遺伝的多様性から植物のストレス適応メカニズムを理解することを目的に、多様性を決定する鍵遺伝子の同定、および鍵遺伝子を中心とする耐性メカニズムの解明を目指している。2020年度の実績としては、高温耐性に関する研究において成果が得られた。実験accessionとして広く用いられるCol-0はシロイヌナズナaccession間において長期高温ストレスに比較的耐性を示すaccessionであった。これまでにCol-0由来の高温感受性変異株の単離およびその原因遺伝子同定について報告はあるものの、その数は限られており、未同定の高温耐性寄与遺伝子が残されていると考えられた。そこで長期高温耐性メカニズムの解明を目的に、Col-0種子をEMS処理により突然変異を誘発させたM2種子を用いて長期高温感受性変異株のスクリーニングを行った。昨年度においてM2種子5000粒をスクリーニングした結果、4つの長期高温感受性変異株を単離した。そこで本年度は得られた当該変異株の原因遺伝子同定とその機能解析を進めた。その結果、sensitive to long-term heat 4 (sloh4)と名付けた変異株の原因遺伝子同定に成功した。当該遺伝子は小胞体―ゴルジ体間のタンパク質輸送に関わる遺伝子であり、sloh4変異株では、高温ストレス下で小胞体(ER)ストレスの亢進が認められた。この結果より、植物の長期高温ストレス下において、ERストレスを誘導しないように小胞体―ゴルジ体間のタンパク質輸送を正常に保つことが重要であると示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
植物の高温ストレス応答に関する論文を国際科学誌に2報発表するに至った。このうち1報については、昨年度新たに開始した高温応答が欠損する変異株の単離と解析に関する論文であり、「当初の計画以上に進展している」とした。この他、浸透圧ストレスに関する研究においても獲得した複数の変異株について原因遺伝子を特定し、うち1つについては論文投稿準備中まで進捗が見られた。また、本研究では4名の研究協力者に参画頂いているが、先の論文における集団遺伝学的解析、病害応答に関する解析、トマトを用いた応用への展開など、4名それぞれの研究協力者から本研究プロジェクトを推進する重要な成果を頂くことが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、シロイヌナズナaccession間に見られる浸透圧耐性および高温耐性の遺伝的多様性から植物のストレス適応メカニズムを理解することを目的に、次の課題に取り組んでいる。1)浸透圧耐性の多様性メカニズムの解明、2)塩馴化後浸透圧耐性欠損株の解析、3)高温耐性の多様性メカニズムの解明、4)高温耐性遺伝子導入トマトの作出と耐性評価。1)については、先行研究において、シロイヌナズナの浸透圧耐性の多様性を決定するACQOS遺伝子座を同定したが、その一方で、ACQOS以外にも浸透圧耐性の多様性に寄与する遺伝子座の存在が示唆された。そこで、ACQOS以外の浸透圧耐性に寄与する遺伝子座の解明を目的に、GWASを用いた浸透圧耐性寄与遺伝子の探索、およびACQOS遺伝子を持たないにも関わらず浸透圧高感受性を示すaccessionの原因特定を試みる。2)については、新たに2つの塩馴化後浸透圧耐性欠損変異株における原因遺伝子の特定に成功したため、その原因遺伝子がどのように浸透圧耐性に関与するのか機能解析を進めることで、論文化を目指す。3)については、シロイヌナズナにおける長期的な高温に対する耐性の多様性を決定する遺伝子の同定に成功し、かつ機能解析を進んでいるため、令和3年度は論文化を目指す。4)については、これまでの研究により見出した高温耐性遺伝子をトマトとイネに導入、あるいはゲノム編集で遺伝子欠損させ、得られた植物体の高温ストレス応答、特に実りへの影響などを検証する。
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