研究課題/領域番号 |
19H03093
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研究機関 | 人間環境大学 |
研究代表者 |
藤井 伸二 人間環境大学, 人間環境学部, 准教授 (40228945)
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研究分担者 |
牧 雅之 東北大学, 学術資源研究公開センター, 教授 (60263985)
那須 浩郎 岡山理科大学, 生物地球学部, 准教授 (60390704)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 農耕地環境 / 人為的インパクト / 水生植物 / 分子系統地理学 / 集団遺伝学 / 遺跡試料 |
研究実績の概要 |
現生水生植物の材料採取についての当初予定は西日本を中心とした地域における収集であったが,北海道と関東地域を除くほぼ全国(東北,信州,東海,近畿,中国,四国,九州)にわたって行うことができた.その結果,水生植物の広汎な分類群を収集することができ,DNA解析のためのスクリーニング材料として十分な材料を入手することに成功した.また,これらの材料収集の作業を通して,次年度以降に予定している集団解析に適したフィールドについての有望な情報が得られた. 遺跡発掘試料についてすでに入手済みの試料について洗浄・選別を進めるとともに,より効果的な遺跡試料の保存方法を検討するための試行を行った.また,DNA抽出の確率をできるだけ高めるために,良好な状態で保存されている遺跡試料の集中的選別を進めた.これらの作業を通して,とくにイバラモ属植物の種実が良好に保存されていることを確認した.種実遺体の保存状態の状況から,今後の現生種の効率的調査を進めることが可能となった.一方,新たな遺跡試料の入手については発掘作業の予定や進行スケジュールに合わせて実施する必要があり,各地の遺跡発掘関係者に問い合わせることで今後の遺跡発掘試料の収集のための準備を整えた. DNA解析については,入手した現生種の材料について順次スクリーニング作業を進めた.葉緑体DNAと核ITSのDNAについて予備的な分析を進めた結果,いくつかの分類群において同一種内に大きな変異が認められた.このことは,従来知られていなかった隠蔽種の存在を強く示唆している可能性がある.集団遺伝科学的な解析を進めるために,より精度の高い解析手法として次世代シークエンサーを用いた手法を検討した結果, MIGseq法が最も有望であることが明らかになり,次年度以降の解析準備を進めた. 本研究の一部の成果を公表する論文は,成果論文に記載の他に1編が印刷中.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現生植物の収集:予定していた西日本に加えて東北,信州,東海の各地域における調査と収集が実施され,広汎な地域において様々な分類群の分析試料を収集することができた.これは当初の予定を大きく上回る進捗状況である.とくに入手が困難と考えられていたイバラモ属植物のムサシモについては,近年になって新たな産地が見つかったことから十分なサンプルを得ることができた.また,集団解析のための有望なフィールドをいくつか把握したことから,次年度以降の材料収集を効率的に行う足がかりを得た. 種実遺体の収集:遺跡発掘試料については,種実遺体の産出量の寡多の問題と,地層内での保存状態に依存した劣化の問題がある.これらの状況を把握しながら種実遺体の洗浄と選別を進めた結果,いくつかの遺跡発掘試料では多量の水生植物の種実が良好な状態で保存されていることが明らかとなった.種実遺体分析を行った遺跡はかならずしも十分な数ではないが,種実遺体からのDNAの抽出とその解析にむけて必要なサンプルを得る目処が立ったことから,おおむね順調な進捗状況である. DNA分析:現生の水生植物の材料について,葉緑体DNAと核ITS領域のDNAの予備的解析を行った.その結果,イバラモ属植物において,同一種内におけるDNA変異を見いだした.現状ではまだデータが少ないために,隠蔽種の可能性にくわえて地理的変異の可能性もある.これらは一部の種類についての結果であるが,本研究の解析に不可欠なDNAの変異を見いだした点で,順調に進捗しているといえる. SSRのマーカー開発については予定通り進行中であるが,その有効性と解析結果が得られるのは次年度以降になる見通しである.また,MIGseq法の有効性を確認し,今後の解析にこの手法を取り入れる方向性が定まった.以上のように,DNA解析については予定通り進捗している.
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今後の研究の推進方策 |
研究はおおむね順調に進行中である.今後の研究をより積極的に推進するための方策を以下に記す. 現生種の材料収集:予定通りの収集活動を行うが,イバラモ類が解析材料として有望なことが判明したので,イバラモ属にとくに重点を置いた収集を行う.イバラモ属には東北以北に希産する種類が多く含まれるため,東北及び北海道における試料収集を進める.また,イバラモ属イバラモは本州だけでなく南西諸島にも広く分布することから,地理的な分化について解析するために南西諸島における調査を積極的に行う. 種実遺体の材料収集:予定通りの収集活動を行うが,水田遺構から得られた試料に良好かつ大量のイバラモ属植物の種実が含まれていたことから,とくにイバラモ属の種実遺体の収集に力点を置くこととする.セキショウモやミズオオバコの種実遺体はほとんど出土しないが,カヤツリグサ属植物の種実は多量に産出するため,これらの多量に収集可能なサンプルの洗浄・選別を行い,DNA解析に供するようにする. DNA解析:予定通りに進める.葉緑体DNAおよび核ITS領域の解析については,十分に有効性が認められているが,これらのマーカは解像度の低い欠点がある.集団遺伝学的な解析のためにはSSRマーカーの有効性の確認が必要であり,次年度以降にその評価を行う.また,次世代シークエンサーによるMIGseq法の解析をよりいっそう積極的に行う. 他プロジェクトとの連携:本研究代表者の藤井は,環境研究総合推進費環境問題対応型研究「次世代DNAバーコードによる絶滅危惧植物の種同定技術の開発と分類学的改訂」(代表者:矢原徹一)の分担者となっている.こちらの研究は日本産維管束植物の網羅的DNAバーコーディングを目的としているので,お互いの協力関係を築いて材料採取やその共有化を通じてお互いの研究を効率的に進めることとする.
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