人工海水中と50 mMリン酸緩衝液pH6.0での海洋ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)由来キチン加水分解酵素(VpChi1)の全長酵素と第2吸着ドメインを削除した酵素(触媒ドメイン)のキチン分解活性を比較した。その結果、人工海水中ではそのpHが7.5であったことから、どちらの酵素ともリン酸緩衝液中よりも3.5分の1の活性であった。しかし両反応条件において全長酵素は0.25 mg/mlのキチン濃度で最大活性を示し、高キチン濃度で基質阻害を示した。阻害様式を確定するため、蛍光標識した第2吸着ドメインのみの酵素を生産しキチンへの吸着特性を1分子蛍光計測で計測した。その結果、第2吸着ドメインのみでもキチンへの特異的吸着を示し、触媒ドメインの3分2程度の吸着速度定数と1.5倍の解離速度定数を示した。よって第2吸着ドメインのキチンへの吸着親和性は触媒ドメインの4割程度ではあるがキチンへの吸着能力があることが明らかとなった。2つが共存している全長酵素では触媒ドメインの5倍長く吸着する。これは第2吸着ドメインと触媒ドメインの両方が同時に解離しないと全長酵素では解離しないことを示しており、薄いキチン濃度でも高活性を示す理由が説明できた。また濃いキチン濃度での基質阻害では、2つのキチンに吸着することで分解活性が低下するとして式をたてることで回帰が可能となった。これは分解しているキチンとは異なるキチンに第2吸着ドメインが吸着することで、キチンの分解を阻害してしまうことに起因すると結論づけることができた。VpChi1が働く海洋中では水が多量に存在し、一度キチンから離れたら二度と同じキチンには吸着できないと想定される。キチン表面への滞在時間を長くするために2つ目の吸着ドメインがあることは、海洋環境中でのキチン分解ではメリットしかなく、大変重要であると考えられる。
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