研究課題/領域番号 |
19H03107
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
堀内 浩幸 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (80243608)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ニワトリ / 性決定 / Dmrt1 / HEMGN / PGC |
研究実績の概要 |
ニワトリの性決定に関わるDmrt1に関して,Dmrt1が生殖巣を形成する体細胞で機能するだけでなく,生殖細胞自身の自律的な発現により,生殖細胞の分化を制御している可能性が明らかになった。具体的には,ZsGreen(緑色蛍光タンパク質)発現始原生殖細胞(ZsGreen-PGC)を樹立し,このZsGreen-PGCに対してCRISPR/Cas9によりDmrt1に変異を導入した。Dmrt1に変異を導入したZsGreen-PGCの中から,Dmrt1の両アレルに変異導入されたZsGreen-ΔDmrt1-PGC(Dmrt1-/-)をクローニングし,初期胚へ移植したのち,緑色蛍光の発現を追跡することで,Dmrt1の生殖細胞自身の自律的な発現による生殖細胞の分化に与える影響を解析した。コントロールには,Dmrt1に変異を導入していないZsGreen-PGCを使用した。その結果,Dmrt1に変異を導入していないZsGreen-PGCは,正常に精子分化が進行し,移植したZsGreen-PGCから緑色蛍光を発する成熟した精子が観察された。一方,ZsGreen-ΔDmrt1-PGC(Dmrt1-/-)を移植した個体では,緑色蛍光を発する成熟した精子は観察されなかった。胚発生の時間軸で精子形成過程を追跡したところ,体細胞分裂が行われる精原細胞までは正常に精子分化が進行していることがわかった。 ニワトリのオスの性決定に関わるHEMGNに関して,2020年度はΔHEMGNニワトリ(HEMGN-/-)のメス個体の表現型の解析を行なった。その結果,肝臓の異常,卵管の萎縮,鶏卵の未熟化が観察された。これらはHEMGNが,血球分化に関与しており,ΔHEMGNニワトリでの造血系への異常が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では,鳥類であるニワトリの性を決定するマスター遺伝子ではないかと考えられているDmrt1遺伝子に着目し,本遺伝子をゲノム編集技術によりノックアウトする。本実験により,Dmrt1遺伝子ノックアウトのヘテロ接合体(Dmrt1+/-)やホモ接合体(Dmrt1-/-)を作出し,その生殖巣の特徴や周辺遺伝子の発現に与える影響を解析することで,ニワトリにおける性決定のメカニズムを明らかにすることを目的としている。また周辺遺伝子としては,Dmrt1の下流に位置すると考えられ,ニワトリ独自の性決定に機能していると考えられているHEMGNに着目し,ゲノム編集によりこの遺伝子のノックアウト個体の解析も並行して実施している。いずれも研究においても,それぞれのノックアウト個体やノックアウト生殖細胞の解析が順調に進捗し,表現型解析において新た知見が得られつつある。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の成果から,ニワトリの性決定に関わるDmrt1に関して,Dmrt1が生殖巣を形成する体細胞で機能するだけでなく,生殖細胞自身の自律的な発現により,生殖細胞の分化を制御している可能性を突き止めた。そこで,2021年度は,この研究成果を確実に実証するために初期胚へ移植したZsGreen-ΔDmrt1-PGC(Dmrt1-/-)の詳細な追跡実験を行い,Dmrt1-PGC(Dmrt1-/-)が精子形成過程のどの時点で分化を停止しているかを明らかにする。また,2020年度に作製した抗Dmrt1抗体を用いてDmrt1タンパク質の発現自体もエビデンスとして免疫組織化学染色により明らかにする。一方,英国のグループが体細胞で発現するDmrt1のヘテロノックアウト(Dmrt1-/+)で精巣が卵巣化することを報告した。しかし,この研究ではヘテロノックアウトのモニタリングができておらず,私はヘテロノックアウト(Dmrt1-/+)PGCをどちらもマーキングしたPGCを作出して,Dmrt1の体細胞での発現における性決定機構と生殖細胞の自律的な生殖細胞分化の解明を行う。これには,同時にDmrt1の次に生殖巣で発現してくるHEMGNの解析も必須となるため,2021年度には,ΔHEMGNニワトリ(HEMGN-/-,HEMGN+/-)のオス個体の表現型の解析を集中して行う。また,これらの転写因子を制御する周辺制御因子の網羅的な発現解析を実施する。
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