研究課題
ウシの着床成立に向けた胚ならびに母体子宮の細胞間のコミュニケーションには、インターフェロンタウなどの分泌因子を介したパラクリン作用、胚と子宮上皮細胞との物理的な接触によるジャクスタクリン作用、細胞外小胞のエクソソームを介した作用、母体免疫細胞による作用があると想定し、我々はこれまでこれらの作用について検討してきた。本申請2年目では以下の検討を行った。まず、in vivoでの着床時(妊娠20日)におけるウシ胚ならびに子宮組織での遺伝子発現変化とin vitroでの着床を再現する生体外着床モデルにおける子宮上皮細胞ならびに栄養膜細胞株での遺伝子発現変化を比較し、生体外着床モデルがどれほどin vivoの着床を再現できているかを網羅的に解析した。その比較検討により、それぞれの細胞において生体外着床モデルは、in vivoでの遺伝子発現変化を限り無く忠実に再現できていることが確認できた。このことは、生体外着床モデルにおいて添加する着床時子宮灌流液中に存在する分泌因子およびエクソソームによって、着床が制御されていること、また、胚と子宮上皮細胞の物理的な接触によって着床に向けた遺伝子発現が誘導されていることを示唆した。さらに、子宮灌流液中のエクソソーム内にmiRNAが確認できていることから、ウシ着床期胚のmiRNAをカスタムマイクロアレイによりの網羅的解析を行い、子宮灌流液中のエクソソーム内のmiRNAが胚あるいは子宮組織のどちらの由来かを同定した。また、胚移植施行3日前のPBMCの子宮内投与により、受胎率が亢進することから、FBS添加培地で24時間培養したPBMCに発現している遺伝子群の網羅的解析を行い、IL-6が胚の伸長に関与していることが確認できた。
3: やや遅れている
新型コロナウイルスの感染蔓延防止に伴い発出された緊急事態宣言により、テレワークとなったり、ピペットチップ等の消耗品の購入が困難となったりしたことから、本年度実施できた研究の多くがin silico解析となり、細胞を用いた実証実験がほとんど行えなかった。また、令和3年2月13日に発生した福島県沖地震により、研究機材などの破損や故障により、研究が頓挫せざるを得ない状況になったこともあり、研究進捗は当初の計画よりやや遅れている。
in vivoとの比較検討により、インテグリンなどの細胞接着因子を含め、いくつかの遺伝子においては生体外着床モデルでは誘導できていないことから、誘導できていない遺伝子の発現制御機序および着床における役割を検討する。また、こうしたいくつかの遺伝子群の発現が生体外モデルでは再現できていないにもかかわらず、インターフェロンタウの発現が低下、つまり、着床が成立していると誤判断してしまうため、着床成立マーカーの再設定(現在はインターフェロンタウの発現低下)が必要である。また、胚由来のエクソソームに含まれるmiRNAの子宮上皮細胞に対する作用を検討し、着床成立にどのように寄与するか検討する。FBS添加培地で24時間培養したPBMCが分泌するIL-6以外の因子についても、胚および子宮上皮細胞に対する作用を検討する。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件)
Neurotoxicology
巻: 78 ページ: 127-133
10.1016/j.neuro.2020.03.001.
Arch Toxicol.
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