研究課題/領域番号 |
19H03114
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
今内 覚 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (40396304)
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研究分担者 |
村田 史郎 北海道大学, 獣医学研究院, 助教 (10579163)
大橋 和彦 北海道大学, 獣医学研究院, 教授 (90250498)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 抗体療法 / 免疫チェックポイント / 腫瘍疾患 / イヌ / ネコ |
研究実績の概要 |
免疫チェックポイントに係る免疫抑制因子を標的とした特異的に腫瘍を排除する抗体医薬品を開発し、難治性の悪性腫瘍に罹ったイヌに対する臨床応用研究を行った。ポメラニアン、12歳、去勢雄。CT検査において右上顎犬歯尾側より発生する腫瘤性の病変を認め、内側咽頭後リンパ節は両側ともに腫大していた。原発巣に対して外科的切除を行ったが、病理検査によりマージン部に悪性黒色腫細胞の残存を認めた。残存病変に対する放射線照射を計画していたが、プランニングCTで口腔内に再発病変を認めた。そして放射線治療終了後の定期健診 (初回照射から6週目) におけるCT検査にて、再発巣の増大と肺転移の出現を認めた(Stage IVに進行)。その後、抗PD-L1抗体(5 mg/kg、2週間に1度)による免疫療法を開始した。1クール(3回投与、6週間)終了時に効果判定としてCT検査を行った。その結果、免疫療法開始前に長径10.9 mmだった口腔内の再発巣が、CT検査において画像上完全に消失した。同様に、複数あった肺転移巣においても縮小・消失が認められた。肺において微小な病変が残存していることが疑われたため、総合的には部分奏功と判定した。免疫療法開始以前に放射線治療を行っているため、口腔の再発病変の消失は放射線治療の効果によるとも考えられるが、照射終了後のCT検査において明らかな縮小が認められていないことから抗PD-L1抗体による治療効果の寄与が大きいと考えられた。このことから、抗PD-L1抗体は肺転移のあるイヌ悪性黒色腫に対する有効な治療法となりうると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、抗PD-L1抗体が、肺転移のあるイヌ悪性黒色腫に対しても奏功が認められことからPD-L1の発現および維持メカニズムについても研究を重ねた。すなわち、イヌのCKLF-like MARVEL transmembrane domain-containing protein (CMTM) 6およびCMTM4の同定を行った。その結果、PD-L1との関連が示唆されているヒトやマウスのCMTM6およびCMTM4遺伝子と高い相同性を示し、細胞膜およびリサイクリングエンドソーム関連のタンパク質に保存されているMARVELドメインを保有していることが確認され、イヌにおいても同様のPD-L1膜発現維持機構があることが示唆された。さらに、イヌ腫瘍部のCMTM6およびCMTM4発現を解析したところ、悪性黒色腫や骨肉腫においてPD-L1発現領域でCMTM6およびCMTM4も共発現していることが確認された。今後さらに、腫瘍におけるCMTM6およびCMTM4のPD-L1膜発現の制御機構を解析し、イヌ腫瘍に対する横断的な新規治療法の開発へとつなげたい。
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今後の研究の推進方策 |
今回奏功が認められた悪性黒色腫について、より多くの症例について検証する一方、今後は、他の腫瘍疾患に対しても治療試験を行い、腫瘍横断的な治療法の可能性について検討を進めていきたい。また、より効果的な腫瘍治療を実現するためにさらに強力な効果を示す抗体医薬等の開発を進めるとともに、実用化に向けた動物用医薬品産生方法の改善など更なる検討も行っていきたい。
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備考 |
令和元年度日本小動物獣医学会(北海道)奨励賞受賞(竹内)
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