研究課題
褐色脂肪組織(BAT)は非震え産熱に貢献し体温調節に重要である。ここでは発達期のハムスターの体温調節におけるBATの役割について調べました。ハムスターにおいても肩甲骨間にBATと思われる組織が存在し、その機能を司るミトコンドリアの脱共役タンパク質1 (UCP1)シグナルが検出されました。さらにUCP1に対する免疫組織像はハムスターにおいては少なくとも生後14日目時点においては機能的BATが存在することを示しました。事実、14日齢のハムスターでは23度のホットプレートにのせて15分間は赤外線カメラで測定した体表面の温度維持が可能であるのに対し、7日齢や10日齢のハムスターでは速やかに体温が低下しました。同様に12日齢のUcp1ノックアウトマウスでも素早い体温喪失が起こるのに対して、ヘテロノックアウトマウスは機能的Ucp1を持ち、野生型の61.3%であるものの体温を維持できました。つまりハムスターは生後直後から10日齢には変温動物の様に環境温度に影響を受けますが、生後14日(前後)で恒温性を獲得し、それには後天的なBATの発達が必要なことを我々は示しました。しかしながら、BATの生後発達メカニズムは未だ明らかになっていない。褐色脂肪細胞は骨格筋の前駆細胞由来を共通にしており、BATの機能や組織の増生には交感神経活性が重要であることが知られています。それらの観点からBATの組織形成にかかわる因子を探索しています。
2: おおむね順調に進展している
1.NT4/ コンディショナルノックアウト(cKO)マウスの作製2.アディポネクチン(APN)ノックアウト(KO)マウスの作製3.NT3およびNT4/5のin vitro機能検出系の確立: 4に述べる様に、Trk受容体の発現レベルに大きな変動があったため、因子間の機能的相互作用を検出できる系を確立しておくと有用である。そこでTrk受容体およびp75受容体を持たないHEK293細胞に個々の受容体を発現する細胞を作り、4つの条件で(SPARCを共発現する・しない/APNを共発現する・しない)比較できる様に細胞を作製中である。4.アディポカインとしてのNGF, NT3, およびNT4/5の役割: これらは何れも遺伝性に肥満を呈するKKマウスで加齢による脂肪細胞の肥大化に伴って発現タンパク質量が増加した。マウスにおいてNT3とその受容体TrkCは主に間質血管画分の細胞(SVC)に発現し、NT4/5もSVCに発現するがその受容体TrkBはSVCよりもむしろ成熟脂肪細胞で多くの発現が見られた。しかしながら、SVCのTrk受容体遺伝子発現は細胞培養とともに消失したので、マウスではin vitroでNT3-TrkC、NT4/5-TrkBの機能を見ることは難しいと考えた。ラットSVCの初代培養においてはコンフルエントになっても TrkBおよびTrkCの発現が見られ、脂肪細胞の分化誘導によってそれらの増加が確認された。この初代培養系に抗NT3中和抗体あるいは抗NT4/5中和抗体を添加すると細胞数が減少し、両者の添加は相加的であった。また各抗体の効果は栄養因子の補充で回復した。なお抗NGF抗体の添加では細胞数に変化は見られなかった。現在、Trk受容体およびp75受容体に対する阻害剤を用いてNTの前駆脂肪細胞数の維持および分化における作用をさらに検証をおこなっている。
本研究では当初、C57BL/6マウスの代謝異常モデルやサルコペニアモデルおよび2種の修飾因子に対するKOマウスを用いて神経栄養因子とその修飾因子であるアディポネクチン(APN)およびSPARCの骨格筋形成や機能に対する作用を明らかにしようとしていた。しかし、令和元年度に文部科学省新学術領域研究 学術研究支援基盤形成先端モデル動物支援プラットフォームに採択され、NT4/5 cKOマウスを作製いただいた。また現在までの進捗に記した様にNT4/5とNT3の機能には重複性(冗長性・代償性)があると推察している。そこで本年度は先端モデル動物支援プラットフォームとNT3 cKOマウス作製について事前打ち合わせを行った。これによりダブルcKOマウスの作成が可能となり、NT3とNT4/5および両者のトータルでの作用を明瞭な形で明らかにできる。NT4/5 cKOマウスについてはキメラマウスを6月中旬に入手する。NT4/5キメラマウスをいくつかのマウスと交配して薬剤耐性遺伝子などを除去し実験に用いることができる遺伝子型とする。さらに条件付きのCre酵素を導入したのち, このマウスを2群に分け通常餌と高脂肪食を与え十分に体重差が得られた後で、組織特異的、あるいは誘導型Cre酵素により組織中のNT4/5を欠失させることで起こる変化を骨格筋のRNA sequencingにより網羅的に解析する。これにより骨格筋の変化とNT4/5の機能を明確に関連づけることができる。一方、NT活性の修飾因子 APN KOマウスについては5月中旬に搬入を予定している。まず APN KOマウスの数を増やすと共にその胎児線維芽細胞を8項3の様なin vitroの機能評価系の作成に供する。骨格筋のRNA解析でこの系への関与や相互作用が示唆された分子について、in vivoの評価前に詳細について検討する。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Journal of Veterinary Medical Sciences
巻: 81 ページ: 1461-1467
10.1292/jvms.19-0371