研究課題/領域番号 |
19H03116
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
木村 和弘 北海道大学, 獣医学研究院, 教授 (30192561)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 神経栄養因子 / アディポネクチン / 脂肪細胞 / 金芽細胞 |
研究実績の概要 |
生体には大きく分けて二つの脂肪組織が存在する。そのうち褐色脂肪組織(BAT)は非震え産熱に貢献し体温調節に重要であり、エネルギー消費を高め恒常性の維持に働く。一方、白色脂肪組織(WAT)はエネルギーを中性脂肪の形で保存し、必要に応じて脂肪酸の形で全身の組織に供給する。この二つの組織の機能は交感神経系によって協調的に行われる。しかしながら各々の前駆脂肪細胞の起源やその増殖分化に関与する因子群、自律神経系と因子群の相互作用などについては不明な点が多い。我々は交感神経系機能維持に重要な神経成長因子(NGF)がWAT/BATより分泌されること、同じく脂肪細胞から分泌されるアディポネクチン(APN)と高い親和性をもって結合すること、細胞外マトリックスタンパクの一つSPARC (Secreted proteins acidic and rich in cysteine) とも結合すること、NGF活性はAPNとの結合によって阻害されSPARCとの結合により増大することを明らかにした。本研究ではAPN とSPARCと同様の相互作用を持つ2種類の神経栄養因子(Neurotrophin: NT3および NT4/5)について脂肪組織のみならず、骨格筋への作用を明らかにし、肥満により筋肉の再生、萎縮や筋紡錘形成などがどの様に変化するか検討する。現在までにNT4/5とNT3の2系統のコンディショナルノックアウトマウスを作製し、薬剤耐性遺伝子の除去などを実験可能な遺伝子型に整える準備をしている。 APNノックアウトマウスを導入し、実験に必要な個体数を準備中である。またC2C12細胞などの株化細胞を用いてNT4/5及NT3の作用について予備実験を行なっている。KOマウスなどin vivoで得られた影響を明らかにするため生体から筋芽細胞の分離と培養法の確立することを試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.NT4/5コンディショナルノックアウト(cKO)マウスおよびNT3コンディショナルノックアウト(cKO)マウスを作製し薬剤耐性遺伝子の除去などを行っている。.上記の薬剤耐性遺伝子の除去に用いるFLPを導入したマウスを系統維持している。 2.アディポネクチン(APN)ノックアウト(KO)マウスを導入し、実験に必要な個体数を準備中である。またKO、ヘテロKO、野生型で血中APN濃度を検証中である。 3.マウス筋芽細胞の分離と培養法の確立:筋肉の研究にはC2C12細胞などの株化細胞が頻用されるが、in vivoでの状態を反映させるためマウスより筋芽細胞を分離培養し、増殖や分化能を評価する。 4.アディポカインとしての NT3およびNT4/5の役割:脂肪組織において炎症刺激はNGFの発現を増強し、マスト細胞の遊走などを惹起する。この時NT3やNT4/5なども発現するがその役割は明らかにされていない。一方、遺伝性に肥満を呈するKKマウスで加齢による体重の増加に伴ってNT3やNT4/5量が増加した。そのため後者は脂肪組織の発達に関与すると考えた。ラット脂肪組織から間質血管細胞画分(SVC)を分離培養したところへ各NTの中和抗体を加えると、抗NGF抗体は何の変化ももたらさなかったが、抗NT3抗体と抗NT4/5抗体は各々単独で増殖を抑制した。2つの抗体による抑制は相加的であり、各抗体の標的因子の添加で回復された。SVCは前駆脂肪細胞を含むことから NT3とNT4/5栄養因子として機能し、脂肪組織の維持に重要である。(論文執筆中)
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目標は、マウスの代謝異常モデルやサルコペニアモデルおよび2種の修飾因子に対するKOマウスを用いて神経栄養因子(NT)とその修飾因子であるアディポネクチン(APN)およびSPARCの骨格筋形成や機能に対する作用を明らかにしようとするものである。 そこでNT4/5とNT3コンディショナルノックアウト(cKO)マウスを作製した。両マウスともキメラマウスと野性型のF1を作成し、現在FLPマウス交配させneomycinカセットの除去を行っている。次いで導入したFLP遺伝子の除去、ホモ化を経て、実験に必要な個体数を作る。さらにNT4/5およびNT3のダブルcKOマウスを作る。これら3つのKO系統はその胎児繊維芽細胞を用いてCre酵素を導入しNT発現が人為的に調節されることを確認する。次にマイオゲニンプロモーターの下流でタモキシヘンアナログを投与することでCre酵素が活性するマウスを購入して、3種のKOマウスとのF1の発現形質について調べる。この時マウスを2群に分け通常餌と高脂肪食を与え十分に体重差が得られた後で、組織特異的、あるいは誘導型Cre酵素により組織中のNT4/5あるいはNT3、または両者を欠失させることで起こる変化を骨格筋のRNA sequencingなどにより網羅的に解析する。これにより骨格筋の変化とNTの機能を明確に関連づけることができる。 NT活性の修飾因子である APN KOマウスについては血中APNを確認する。APNと相互作用する因子について免疫細胞の走化性や脂肪組織の変化、皮膚への神経投射の増加などについて検討する。SPARC KOマウスは国内の実験動物供給バンクから導入可能であるが、現時点では導入せず、上記の計画に集中する。
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