研究課題/領域番号 |
19H03118
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中尾 亮 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (50633955)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 吸血性節足動物 / 共生微生物 / マイクロビオーム / マダニ / Gregarina |
研究実績の概要 |
昨年度実施した原核生物16SリボソーマルRNA遺伝子(rDNA)を対象とした解析に加え、マダニに共生する真核生物叢を解析した。マダニ18S rDNA配列に特異的な人工核酸(Locked Nucleic Acid (LNA)およびPeptide Nucleic Acid (PNA))をPCR反応液に添加することで、マダニ由来DNAの増幅を抑制する手法を開発した。また、後生動物に特異的なプライマーを用いた真核生物叢解析手法も検討した。国内の3種のマダニを用いて試験したところ、一般的なPCR法では検出配列のほぼ全てがマダニ由来であったが、PNAを用いたPCR法では最も効果的にマダニ由来の配列が減少し、多様な真核生物が検出された。後生動物特異的なプライマーを用いた場合でもマダニ由来の配列の減少は確認されたが、真菌類が優先的に検出される結果となった。さらに、PNAを用いたPCR法を4属18種95個体の日本産マダニに応用したところ、Apicomplexa門の病原性原虫が42個体で検出され、さらに同門に分類される節足動物共生性のGregarinaが17個体で検出された。さらに、土壌や淡水から報告のある原生生物や未分類の原生生物の配列も多数検出された。 上記に加え、これまでに分離培養に成功したマダニ共生微生物(Spiroplasma属細菌とRickettsiella属細菌)の全ゲノム配列を解読した。特に、Rickettsiella属細菌は、昨年度解析したCoxiella属細菌と系統学的に非常に近縁であり、ビタミン代謝に関わる遺伝子群について解析を進めた。また、マダニの抗酸化に関わる遺伝子をRNAi技術によりノックダウンして、細菌叢に与える影響を評価した。解析の結果、ノックダウン前後における明確な微生物叢の変化は観察できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度確立した真核生物叢の解析手法により、これまで全く検索されてこなかった原虫などのマダニ真核生物叢の網羅的検出が可能となった。これまでに蓄積した細菌叢データと統合することで、より網羅性の高いマダニ保有微生物叢データとなり、病原体との相関関係を解析できる基盤データが得られた。また、これまでに解析してきたCoxiella属細菌に加え、新たにRickettsiella属細菌のゲノムが利用可能となり、マダニ体内で生存に重要な共生菌因子の特定につながることが期待できる。今年度は、マダニ遺伝子のノックダウンにより細菌叢への影響は確認できなかったが、一連の実験手技は、別の候補遺伝子の解析に利用できる。 以上のことから、研究は当初の予定通り、おおむね順調に進んでいると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのところ順調に研究が実施できているため、本年度も申請書の計画通り進める。病原体―共生微生物の相関解析に関しては、真核生物も合わせたデータを用いてモデルを構築し、病原体に影響を受ける生物群を特定する。共生微生物の生存に関わる節足動物因子の特定には、マダニ体内でビタミンB群を生合成することにより、マダニの生存に必須と考えられているCoxiella属共生菌と近縁なRickettsiella属細菌の完全長ゲノム配列が得られたことから、ビタミン代謝経路を中心に重要遺伝子の特定を進める。さらに、パラトランスジェネシスのベクター候補であるSpiroplasma属細菌をマイクロインジェクションにより、実験室内で飼育しているマダニに投与し、マダニ体内での局在を解析する。特に、卵巣移行期に有意に発現増強されるマダニとSpiroplasma共生菌双方の遺伝子を特定する。
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