本邦に生息する4種の軟ダニ(Argas japonicus、Carios vespertilionis、Ornithodoros capensis、Ornithodoros sawaii)とアフリカ原産で実験室で長く維持されている軟ダニ(Ornithodoros moubata) について、保有細菌叢を解析した。その結果、ダニ種ごとに特徴的な細菌叢を有することが明らかとなった。優占する細菌属としてCoxiellaがA. japonicus以外の全てのマダニで検出された。とりわけC. vespertilionisではCoxiellaとRickettsiaの2種、O. moubataではCoxiellaとFrancisellaの2種が検出され、軟ダニにおいては二種以上の共生菌の感染現象が広くみられる可能性が示唆された。Coxiellaを欠くA. japonicusでは、OccidentiaとThiotrichalesが優占する細菌群として検出された。節足動物細胞を用いることで、Occidentiaの分離培養に成功し、完全長ゲノムを解読した。 パラトランスジェネシスのベクター候補であるSpiroplasmaについて、マダニ個体間での伝播動態を解析した。Spiroplasmaを保有するIxodes ovatusを吸血試験に供しマダニ卵を得た。PCRにより卵および孵化幼ダニからSpiroplasmaが検出されたことから、Spiroplasmaの垂直伝播が確認できた。さらに、Ixodes属マダニから分離されたSpiroplasma株を、マイクロインジェクションによりHaemaphysalis属マダニに投与した。Haemaphysalis属マダニが産出した卵および孵化幼ダニからSpiroplasmaが低率ながら検出され、Spiroplasmaがマダニ個体間で水平伝播しうることが確認できた。
|