研究課題
本研究では、ストレス誘導性の転写調節因子ATF3の発現誘導機構、およびATF3が転写調節する分子群の解析により、プリオン病における神経変性機構の核心に迫れると考え、ATF3の神経細胞特異的ノックダウンを計画した。当初、コンディショナルターゲッティングで神経細胞特異的ATF3を欠損する計画であったが、マウスの遺伝背景の差異が大きいことから、神経組織親和性が高いアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV-PHP.eB)を用いて経細胞特異的にCRISPR/SaCas9システムでゲノム編集を行う実験系に切り替えた。Sny1 プロモーター下で神経細胞特異的にSaCas9 を発現し、ATF3に対するguide RNAを発現するアデノ随伴ウイルスベクターrAAV-AFT1, rAAV-AFT2を作成した。陰性対照として、オフターゲット効果がないとされるguide RNAを発現するrAAV-NC1, rAAV-NC2, およびSyn1プロモーター下でEGFPを発現するrAAV-EGFPを作成した。rAAV-EGFPをウイルスベクターを脳定位接種法により接種して接種部位の神経細胞でEGFPが発現することを確認した。また、SaCas9を発現するrAAVを初代培養神経細胞に感染させてSaCas9の発現を確認した。現在、予想したゲノム編集が生じるか検討中である。プリオン感染マウスにおけるATF3陽性細胞の定量解析、ATF3神経細胞の割合、および出現部位を解析するために、プリオン感染マウスの脳凍結切片を、NeuN (神経細胞マーカー) とATF3に対する抗体を用いて蛍光多重染色を実施した。ATF3陽性細胞の出現が顕著な視床でが、ATF3陽性細胞の70%以上がNeuN陽性細胞であった。また視床背外側以外では橋灰白質でも病態の進行に伴いATF3陽性細胞が増加していた。
2: おおむね順調に進展している
コンディショナルターゲッティングによる神経細胞特異的なATF3の欠損から、AAVを用いたゲノム編集によるATF3のノックダウンに手法を切り替えたが、rAAVの作製は終了し、ゲノム編集の有無の確認段階まで進んだことから、ほぼ予定通りに進捗していると考えられる。
脳定位接種法によりプリオン感染マウスにrAAVを視床に接種して、陰性対照rAAV接種群と比較してATF3陽性細胞数の変化を調べる。ATF3陽性細胞数が減少した場合には、生存期間、臨床症状、PrPScの蓄積、ミクログリアの活性化およびアストログリオーシスを評価する。RNA-seqの結果からATF3が発現調節するアポトーシス関連因子 Glutathione Specific Gamma-Glutamylcyclotransferase 1 (Chac1) の発現後進が判明していることから、in situ hybridizationを用いて、ATF3陽性神経細胞にChac1が発現するか確認する。ATF3が免疫細胞で転写調節する遺伝子群に関する報告はあるが、神経細胞内で転写調整する遺伝子群に関する報告はない。神経細胞初代培養を低酸素処理をした場合にATF3の発現誘導が生じることから、この実験系を用いて、クロマチン免疫沈降法を用いて、神経細胞でATF3が発現調節する遺伝子群の同定を試みる。
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