研究課題/領域番号 |
19H03119
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
堀内 基広 北海道大学, 獣医学研究院, 教授 (30219216)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | プリオン / ATF3 / 神経細胞死 / 小胞体ストレス |
研究実績の概要 |
本研究では、ストレス誘導性の転写調節因子activating transcription factor 3 (ATF3) の発現誘導機構、およびATF3が転写調節する分子群の解析により、プリオン病における神経変性機構の核心に迫れると考え、ATF3の神経細胞特異的ノックダウンがプリオン病の病態にどのように影響するかを調べることを計画した。アデノ随伴ウイルスベクター(rAAV-PHP.eB)を用いてSynaptophyin 1 (Syn1) プロモーター下に神経細胞特異的にSaCas9 (Staphylococcus aureusに由来する小型Cas9)を発現し、ATF3に対するguide RNAを発現するrAAV-PHP.eB-AFT1, rAAV-PHP.eB-AFT2を作製した。rAAVを感染させた初代培養神経細胞では、予想部位で塩基配列の変化は生じておらず、ゲノム編集が生じていないか、起こっていても効率が悪いことが示唆された。従って、コンディショナルターゲッティング系で神経細胞特異的ATF3を欠損させる実験に着手することとした。 我々の網羅的遺伝子解析の結果は、グルタチオンの代謝に関与するgamma-glutamylcyclotransferase 1 (Chac1) が神経細胞特異的に発現誘導されることを示していることから、ATF3がChac1の発現調整を行っている可能性を検討した。RNA-scopeを用いてATF3陽性細胞でChac1の発現が確認できた。Chac1は、グルタチオンをシステイニルグリシンに分解し、結果として制御された細胞死の一つであるフェロトーシスを誘発する主要な因子の一つである。この結果から、何らかの刺激によりATF3の発現誘導が起こり、Chac1の発現を経て、神経細胞がフェロトーシスを起こすという新たな仮説を着想するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
rAAVベクターを作製し、陽性対象となるEGFP発現ベクターでは、rAAVの神経細胞への感染が確認できたが、ATF3に対するguide RNAとSaCas9を発現するrAAVを神経細胞に導入しても期待したゲノム編集は生じていなかった。再度、コンディショナルターゲッテイングでATF3を神経細胞特異的に欠損させる実験系に着手することとしたため、ATF3を欠損させる実験は想定通りに進捗していない。一方、ATF3陽性細胞でChac1の発現が確認でき、プリオン病の神経変性機構にフェロトーシスの関与を見いだしたことは、想定外の進捗である。
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今後の研究の推進方策 |
Synapsinプロモーター下にCre組換え酵素を発現するマウス(ジャクソンより購入)とATF3遺伝子のエクソン2をloxp配列で挟んだATF3-floxマウス(東京医科歯科大学より分与)を交配させ、ATF3の神経特異的ノックアウトマウスを作出して、プリオンの増殖、ミクログリアの活性化およびアストログリオーシスを評価する。令和2年度、ATF3陽性神経細胞でChac1が発現することを見いだし、プリオン病の神経変性機構に制御された細胞死の一つであるフェロトーシスの関与が示唆された。これまで報告のない新知見であることから、令和3年度新たに、プリオン病の病変部位におけるATF3の発現と神経細胞死の関係を、フェロトーシスの有無という視点から解析する。プリオン感染マウスの視床背外側および橋核におけるATF3陽性かつChac1陽性となる神経細胞およびその周囲のグリア細胞における過酸化脂質の蓄積をNeuN(神経細胞マーカー)、GFAP(アストロサイトマーカー)、あるいはIba-1(ミクログリアマーカー)により細胞種を同定し、4HNE(過酸化脂質マーカー)、およびATF3あるいはChac1の免疫多重染色により解析する。グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx4)の活性、グルタチオン濃度の測定を行い、酸化状態を解析する。また、プリオン増殖に伴うアストロサイトの機能変化により神経細胞が脱落する可能性を検討するために、アストロサイトの活性化が顕著に認められる領域でATF3陽性となる領域(主に視床背外側と橋核)およびATF3陽性とならない領域(主に大脳皮質)でのアストロサイトの活性化を、Magnetic activation cell sortingによりアストロサイトを回収して定量PCRによる遺伝子発現により解析する。
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