本研究は、どのような遺伝学的進化適応に基づき蚊は病原体媒介ベクターとなり得たのか分子レベルで解明することを目的とする。寄生イベン ト成立の転帰は、吸血に伴うベクターへの侵入に際する、病原体と宿主応答とのせめぎ合いの結果として導きだされる。申請者は「ネッタイシ マカ-イヌフィラリア媒介モデル」を用いた研究により、同一種・同系統のベクター蚊なのにも関わらず、病原体媒介能が全く異なる株が存在 することを発見し、そこには株固有の宿主応答が存在することを明らかにしてきた。そこで本研究では宿主応答の株間比較解析を通じ、蚊が病 原体の媒介者となり得たその遺伝学的背景を解明するともに、フィラリアリスク予測マーカーとフィラリアを媒介しない蚊の作出に向けた分子 基盤の整備を目的とする。 免疫関連遺伝子の組換え蚊を作成し表現型解析等をおこなった。その結果、当該遺伝子は犬糸状虫に対する免疫応答に関与することが明らかとなった。しかしながら遺伝子ノックアウトにより補完的に他の免疫関連遺伝子の増強が確認され、フィラリアに対する免疫は複合的な要素が絡み合うことが明らかとなった。すなわちより上流のマスター遺伝子同定の重要性が示唆された。 沖縄でフィラリアのベクターとなるヒトスジシマカのサンプリングを行い、ラボコロニー化した。感染表現型を確認したところ大きなばらつきを確認することに成功した。すなわち遺伝学的に媒介性・非媒介性の蚊を分離することが可能な遺伝学的素因があることが示唆された。
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