研究課題/領域番号 |
19H03126
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
関崎 勉 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (70355163)
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研究分担者 |
野澤 孝志 京都大学, 医学研究科, 助教 (10598858)
遠矢 真理 順天堂大学, 医学部, 助教 (20804694)
中川 一路 京都大学, 医学研究科, 教授 (70294113)
黒木 香澄 (石田香澄) 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特別研究員 (80760272)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 豚レンサ球菌 / 細胞壁タンパク質 / 遺伝子破壊株 / 網羅的機能解析 / 病原性 |
研究実績の概要 |
豚レンサ球菌(S. suis)の無莢膜株は,血小板などへの接着性が亢進する。本菌は遺伝的に多様な集団を構成するが,このうち遺伝的背景が異なる2つの主要なclonal complexであるST1とST28に属する株の無莢膜株を用いて,それぞれ保有する細胞壁タンパク質(CWP)の遺伝子の全てについて,それらを一ずつ欠失した遺伝子欠損(KO)変異株を作製した。しかし,これらの変異株のバイオフィルム形成能,血小板接着性,細胞間マトリックス結合性,細胞接着性,細胞侵入性は,莢膜保有株に比べて高い機能を見せたものの,元の親株との差はなかった。そこで,S. suis 21株および近縁菌種のS. parasuis 6株,S. ruminantium 6株のドラフトゲノム配列中に存在するCWP遺伝子を探索し,ホモログ間の相同性をBioEditで調べた。合計3菌種33株の全ゲノム配列から51種類のCWPを見出した。これらの遺伝子配列を比較すると,S. suisでのホモログ間では高い相同性が認められた。また,51種類のCWP遺伝子中39種類はS. suisだけに認められたことから,これらのCWP遺伝子はS. suisに分岐する前後に水平伝播によって獲得された外来遺伝子である可能性が示唆された。さらに7種類のS. suis CWPホモログの遺伝子間で数10~数100塩基の欠失及び挿入が認められた。S. suisにおいては,ST1の株にだけ存在するCWPを3種見出したことから,それらの部分ペプチドを大腸菌に発現させた組換えタンパク質を作製した。これらに対するウサギ抗体で,全菌体,培養上清,および細胞壁分画へWestern blottingを実施したが,特異的なバンドは検出されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施計画の遺伝子破壊変異株について,ST1の株に見られる22個の遺伝子およびST28に見られる21個の遺伝子破壊株を作製したが,それらの接着性等に関する親株との差は見出せなかった。そこで,細胞壁タンパク質(CWP)の破壊株作製とその性状検定についてはここで終了し,視点を変えて比較ゲノム解析の手法によって各STに特異的または異なるST間で共通なCWPを同定し,さらに,それらのいうち互いにホモログと思われる多様なCWPがあること,その多様性がそれらの間でのゲノム上の塩基配列断片の挿入や欠失により起った結果である証拠を見出すなど,新たな研究の展開が見られることから。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は,細胞壁タンパク質(CWP)にこだわらず,タイコ酸,リポタイコ酸などグラム陽性菌の細胞壁表層に発現していると思われる成分を合成する遺伝子にターゲットを移し,それらの遺伝子破壊株を作製して,バイオフィルム形成能,血小板接着性,細胞間マトリックス結合能,細胞接着性・侵入性検査,オートファジー誘導性について検査を行う。令和4年度は,これらの接着性等を評価し,親株との差が見られた変異株について,動物実験系を用いて主に敗血症および心内膜炎発症への表層成分の関与の解析を行い,これらの成績を総合することで研究目的をより高いレベルで達成することを目指す。
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