研究実績の概要 |
2020年度はTK阻害剤の中でもトセラニブに注目し、トセラニブ未治療の犬の肥満細胞腫の腫瘍組織における超微量のKIT変異の探索と変異KITの性状解析を行った。約160検体の腫瘍組織を収集し、MiSeqを用いたKIT遺伝子のディープシーケンス解析を行った。この解析におけるdepths of coverageは超微量クローンが検出できるよう、少なくとも8000reads/baseの検出感度が得られる条件で解析した。その結果、KIT exon 2, 5, 6, 7, 9, 11, 17, and 21に34種類の変異が特定された。これらの中には従来からトセラニブ感受性として知られるITD変異の他、17種類のnon-ITDが含まれていた。さらにこの17種類の中には、前年度に培養細胞株においてトセラニブ耐性化にかかわる変異として同定されたc.2456A>T変異が含まれていた。この変異はトセラニブ感受性KIT c.1523A>T変異を有するトセラニブ感受性肥満細胞腫細胞株がトセラニブ耐性を獲得するプロセスで生じるKITの二次変異として同定された変異である。このことから、トセラニブ未治療の犬の肥満細胞腫の腫瘍組織において、予めトセラニブ耐性クローンが存在していることが示唆された。さらに、この変異は腫瘍サンプル中のallele frequencyが0.78%ときわめて微量であり、これは当初想定していた腫瘍組織中のトセラニブ耐性素因を持つ超微量クローンがトセラニブによる治療過程で選択的に増加することで最終的に腫瘍組織が耐性を獲得するとの考えを支持する結果であった。一方、他の16種類の変異についてはこれまでトセラニブに対する感受性を解析した報告がなく、腫瘍のドライバーあるいは耐性化としての役割は不明である。これらについては、本年度(2021年度)に検討を進める。
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