研究課題
本課題は、偽遺伝子挿入あるいは塩基置換によるノンコーディングRNA(ncRNA)獲得と機能化が、既存のタンパク質をコードする遺伝子の発現スイッチを多様化しうる、という独自の発見を発展させるものである。特に、霊長類の種特異的長鎖ncRNA(lncRNA)群を介した脳遺伝子発現活性化機構に着目し、ゲノム編集脳オルガノイドのハイスループット産生系構築、トランスジェニック・イメージング・バイオインフォマティクス技術の活用を基礎に課題を進行する。本年度は、昨年度までに行った、齧歯類と霊長類の神経幹細胞におけるディープシーケンシングの結果のバイオインフォマティクス解析から得た、霊長類で発現が亢進しているncRNA-遺伝子セットの情報をもとに、合計6つの機能的プロモーターノンコーディングRNA(pancRNA)を実験的に同定した。ヒトiPS由来神経幹細胞の培養系ではいずれもpancRNAをノックダウンすると下流のmRNAも発現減少したことから、pancRNAは標的遺伝子の発現を正に制御する因子であることがわかった。このことは、これまでに研究代表者がバイオインフォマティクスを駆使することで見出していた、pancRNAの遺伝子活性化機能を反映するものと考えられた。また、標的遺伝子のオーソログ発現コンストラクトをマウス胎仔脳室内に注入し、エレクトロポレーションにより強制発現させたところ、いずれについても神経幹細胞の増殖が亢進した。したがって、霊長類特異的pancRNAは機能的であり、下流遺伝子の発現調節をすることにより、神経幹細胞の数を制御できることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
今年度はin vitro、in vivo両面から着実に機能解析を進めることができた。次年度以降は選択したpancRNAのパートナーとなる遺伝子がコードするタンパク質の特性(細胞膜タンパク質・エピゲノム関連因子・神経特異的細胞骨格結合因子・分泌因子など)にしたがって、それらを起点とするパスウェイを丹念に調べることで、霊長類特有の形質を司る遺伝子ネットワークを炙り出すことが重要であると考えており、そのための準備が整ってきた。
今後は、独自に作成してきたlncRNAデータベースを実験に基づき更に精細化し、種特異的lncRNAの効果の最大化につなげていく。(i)lncRNAと協働するトランス因子候補の同定ゲノム三次元構造解析を行い、トランスクリプトーム情報と合わせることで、lncRNA依存的三次元構造情報を網羅し、プロモーター-エンハンサーのペアの体系化のための予備検討を終えており、次年度に本格始動する。また、遺伝子トランスクリプトームについては、シングルセルで行うセットアップが整い、その方法論の一部は成果として出版に漕ぎ着けた(現在、プレスリリース準備中)。一般的にコピー数の少ないlncRNAについてもさらに高感度検出化を検討中である。(ii)統合解析による幹細胞動態解析:マウス脳オルガノイドの霊長類化度の最大化を目指し、研究実績の概要の項に示した6つの種特異的pancRNAを賦与し、シングルセルRNA-seqによる細胞動態改変状況の精密なプロファイリング、細胞動態イメージングも併せ、種特異的lncRNAの組合せ効果を検討する。並行して、霊長類特異的機能pancRNAの取得を20程度まで拡大する計画を進行しており、得られ次第、マウス脳オルガノイドへの賦与実験に追加供与することで、種特異的lncRNAの組合せ効果を最適に導く予定である。
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Pharmacol Res Perspect
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Cell Rep
Journal of Reproduction and Development
巻: 66 ページ: 359~367
10.1262/jrd.2020-026