本課題では、遺伝学、免疫学および病理学の多面的な解析から、コラーゲン誘導関節炎(CIA)と関連するMHC多型、CIAの重症度を規定する多型マーカーやバイオマーカーの同定等、CIA発症と関連する遺伝要因を明らかにすることを目的し、本課題では、フィリピン産カニクイザル9個体にウシtype IIコラーゲンを免疫し、その後9週間に渡り遺伝学的、免疫学的および病理学的変化を観察した。その結果、3個体にCIAの発症を認め、それらのうちの2個体は、64関節のスコアリングから重症化を示した。また、それら2個体は、同一のMafa-DRBハプロタイプ(Mafa-Class II#17)を有していた。このハプロタイプはMafa-DRB1*03:17アレルとMafa-DRB1*10:05アレルから構成されており、特にMafa-DRB1*10:05アレルはヒトの関節リウマチに感受性を示すHLA-DRB1*04:01やHLA-DRB1*04:05と同一のshared epitopeを有していた。したがって、shared epitopeは種を超えても関節炎発症に関連する遺伝要因であることが示唆された。 昨年度では、関節炎誘導個体でもMafa-DRBハプロタイプの違いにより、局所における炎症の質(Th1、Th2バランス)が異なる可能性が示唆された。そこで本年度では、免疫9週後の血漿を用いて組織免疫染色とELISA解析を行った。組織免疫染色の結果、重症度とは関係なく、いずれの個体においても硝子軟骨に対する自己抗体が産生されていた。またELISAの結果、IgG濃度に個体差は認められなかったが、IgM濃度は無症状個体で高い傾向を示した。したがって、無症状個体ではIgMからIgGへのクラススイッチが遅い可能性がある。さらに、IgGサブクラス解析により、IgG1(Th1タイプ)濃度が重症度と相関した。したがって、Mafa-Class II#17を有する個体は、Th1型のコラーゲン特異的IgG1抗体を多く産生し、CIAの炎症をより誘導することが示唆された。
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