研究課題/領域番号 |
19H03150
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研究機関 | 公益財団法人実験動物中央研究所 |
研究代表者 |
末水 洋志 公益財団法人実験動物中央研究所, 研究部門, 部門長 (40332209)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ヒト肝キメラマウス / 薬物動態 / ヒト肝細胞 / 薬物体内分布 / タンパク結合 |
研究実績の概要 |
ヒト肝キメラマウスにおける “薬物の生体内分布のヒト型化” の課題達成に向け、モデル動物作製と分析技術確立を進めた。 モデル動物作製:1)本年度は血漿タンパク質の大部分を占めるアルブミンのヒト型化モデル作製に注力した。アルブミン遺伝子欠損誘導型肝傷害TK-NOG(TK-NOG-Alb KO)マウスを計画的に生産するため、体外受精・胚移植を行い雌雄合わせて57匹の産仔から27匹のTK-NOG-Alb KOマウスを取得した。19ペアの自然交配群を構築し、2020年度に 90匹の産仔から33匹のTK-NOG-Alb KOマウスを取得した。前年度に実施したガンにシクロビル投与による肝傷害誘導予備試験の結果を元に肝傷害誘導を行い、生着性が確認されているヒト肝細胞を18匹のTK-NOG-Alb KOマウスに移植した。14匹のマウスでは移植8週後の血中ヒトアルブミン濃度が5.5 mg/mLを越え、推定ヒト肝細胞置換率が70%を越えることを確認した。2)α1酸性糖タンパク質(Agp1)はアルブミンに比し存在量が少ないことから、アルブミン・α1酸性糖タンパク質の二重欠損モデルとして開発を進めた。TK-NOG-Alb KOマウスとNOG-Agp1 KOマウスの9交配ペアから74匹の産仔を取得し、PCR遺伝子検査によりTK遺伝子を有し、かつAlb遺伝子とAgp1遺伝子の両方を欠損したTK-NOG-Alb/Agp1 dKOマウス 7匹の取得に成功した。 分析技術確立:上記で確立したそれぞれの系統のマウスについて、マウス血漿タンパクが消失していること、および、ヒト肝細胞が移植されたマウスについてはヒト血漿タンパクが存在することをイムノブロット解析により定性的に評価した。また、マウス、ヒトアルブミンについてはAlphaLISA法により分別定量できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
血漿タンパク質の大部分を占めるアルブミンのヒト型化モデル作製では、18匹のTK-NOG-Alb KOマウスにヒト肝細胞を移植したところ、予想以上のヒト肝細胞生着性を示し約2/3のマウスが推定ヒト肝細胞置換率70%を越える高キメラマウスとなった。また、α1酸性糖タンパク質(Agp1)の欠損を付加したTK-NOG-Alb/Agp1 dKOマウスも樹立することができた。一方、ヒト胎児性Fcγ受容体遺伝子の発現ベクターを再構築してトランスジェニックマウスの作製を試みたが、得られたファウンダーマウスの中に目的遺伝子を発現する個体は認められなかった。今年度作製したTK-NOG-Alb KOヒト肝キメラマウスの中に血中ヒトアルブミン濃度が従来のヒト肝キメラマウスの3倍以上、約30 mg/mLの個体が認められ、これらのマウスではマウスのアルブミンが欠損している上に、ほぼヒトと同等のアルブミンレベルを示すことからアルブミンのヒト型化モデルとして十分機能すると考えられた。Agp1欠損も加えたTK-NOG-Alb/Agp1 dKOマウスでヒト肝キメラマウスを確立し、最終年度に向けたタンパク結合解析、薬物動態解析が計画通りに進められる体制が整備できていることから、計画は概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト肝キメラマウスにおける “薬物の生体内分布のヒト型化” の課題も残り2年となった。2020年度の特筆すべき成果はTK-NOG-Alb KOヒト肝キメラマウスではマウスアルブミンが存在しない上に、ほぼヒトと同等のアルブミンレベルが維持されることを確認できた点である。すでにアルブミン遺伝子とα1酸性糖タンパク質遺伝子の二重欠損マウスの系統化が進んでいることから、次年度以降、計画的なマウス生産を開始し、肝傷害誘導条件の決定とヒト肝細胞移植を行う。少数でもTK-NOG-Alb/Agp1 dKOヒト肝キメラマウスの作製が行えた場合、タンパク結合に種差が想定されるワルファリンなどの化合物について in vivo 薬物動態データを取得する。in vitroタンパク結合の測定には予想以上の血漿が必要なことが判明したため、in vivo 薬物動態データの取得後、ヒト肝キメラマウスの血漿を収集し、プール血漿にて in vitro タンパク結合解析を行う。 これまでに樹立できていないヒトFcγ受容体遺伝子トランスジェニック(Tg)マウスについてはマイクロインジェクション法によるTgマウス作製を継続するとともにゲノム編集技術を駆使しノックインマウスの作製を試みる。
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