研究課題/領域番号 |
19H03151
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
小倉 淳郎 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソース研究センター, 室長 (20194524)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ゴールデンハムスター / 遺伝子ノックアウト / 疾患モデル動物 / 受精 / ゲノム編集 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、多産、容易な飼育・繁殖、マウスよりも早い世代交代などを特長とするゴールデンハムスターに着目し、マウスで未解明の遺伝子のCRISPR/Cas9 KOおよびノックイン(KI)モデルの作出を試みることにある。また、得られた改変動物系統を保存するための信頼性の高い胚凍結保存法も開発する。本年度は、1)ハムスターノックアウト(KO)技術の効率化および2)ハムスター胚の凍結保存技術の開発を行なった。 1)ハムスターKO技術の効率化では、in vivo 卵管内 electroporation であるGONAD法の実験条件の適切化を行った。これまで、GONAD 後の出生率が低いことが明らかとなったので、day 1 の卵管内の卵子を検索したところ、多くの場合で未受精卵であることがわかった。さまざまな試行錯誤の結果、1.Day1の交配後膣分泌物(ハムスターは膣栓ができない)中の精子が大量にある個体のみを使う、2.過排卵用のPMSGの注射の dose を下げることによって、妊娠率の向上に成功した。最終的に Kir6.2のノックアウト個体を得ることにも成功した。 2)ハムスター胚の凍結保存技術の開発では、発生停止の危険が高い早期胚(2-cell)を避け、自然交配3日後の8-16細胞期胚を子宮灌流により採取した。まず、培養液に HECM-3を用いることにより、ほぼすべての胚が胚盤胞まで培養できることを確認した。次に、未凍結の新鮮胚をレシピエントハムスターへ移植することにより、産子が得られることを確認した。しかしながら、凍結融解後の胚の出産には至らなかった。次年度以降、さらに技術の向上を目指して改良を進める予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アクロシンKO ハムスターの解析が完了し、論文発表を行うことができた。これまで、哺乳類精子先体の代表的な加水分解酵素であるアクロシンが、マウスおよびラットの KO がほぼ無表現型であったために、受精に必要がないと考えられていたが、ハムスターではKO精子は透明帯を通過出来ず、完全雄性不妊となったことから、アクロシンが予想通りの機能を持つことを証明できた。 その他に、OVGP1(胆管分泌タンパク質)およびKir6.2(膵臓β細胞ATP 感受性 K+チャネル)のKOハムスターの作出にも成功し、その表現型解析を開始している。OVGP1 KO は、雌の不妊という、これもマウスのKOの解析結果をくつがえす結果を得ている。 以上より、きわめて順調にハムスターKOの開発が進み、マウス KO では得られない遺伝子・タンパク質の機能を明らかにすることに成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
ハムスター用に in vivo CRISPR GONAD法を改良することはほぼ完了した。現在の最大の問題点は、最近の市販ハムスターの繁殖に関わる性質が変化(劣化)しており、過排卵処理後の性周期のずれと交配成功(in vivo 受精)の率の低下が著しいという点がある。この問題点は、同様のハムスターを用いている他施設でも生じており、大きな研究の障害になっている。現在、日本で市販のハムスター以外の系統を飼育している施設は(知る限り)皆無であるが、かつて繁殖能力が高いと言われていた系統の胚が凍結保存されていることがわかった。次年度は、この凍結保存胚由来ハムスター系統の当施設への導入を目指し、研究の効率化を図りたい。そのためには、融解胚の胚移植技術を安定化させる必要もあるため、その技術開発も進める。 また、新規の KO としては、精子ー卵子膜融合因子タンパク質(Juno など)KOハムスターを開発し、受精における精子-卵子膜融合のメカニズム解明の一助としたい。新型コロナウイルスの新薬開発などに用いる糖尿病ハムスターの開発も共同研究で急いで行う。
|