研究課題/領域番号 |
19H03155
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
内海 利男 新潟大学, 自然科学系, フェロー (50143764)
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研究分担者 |
伊東 孝祐 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (20502397)
西川 周一 新潟大学, 自然科学系, 教授 (10252222)
石野 園子 九州大学, 農学研究院, 准教授 (80399740)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リボソーム / タンパク質合成 / 翻訳 / リボソーム蛋白質 / 翻訳因子 |
研究実績の概要 |
ストークと呼ばれるリボソーム蛋白質成分は翻訳反応の各ステップでGTPase翻訳因子をリボソームの機能中心に運び、GTP加水分解を促進して翻訳サイクルの各段階を促進するが、その分子機構の詳細は未解明のまま残されている。本研究では、a)アミノアシルtRNAをリボソームに運搬するEF1A・GTPとストーク蛋白質間の結合機構、b)EF1AのGTP加水分解後、EF1A・GDP→EF1A・GTPのヌクレオチド交換時におけるストーク蛋白質・EF1A間相互作用の切り替え機構、さらに、c)新規GTPase因子YchFとストーク蛋白質間の結合機構とその役割を解析し、翻訳サイクルにおけるストーク蛋白質の動的で多彩なはたらきを解明する。2019年度は主に課題aに関し、次のような新知見が得られた。 1)古細菌EF1A・GTPにPelota因子を結合させたEF1A・GTP・Pelotaの3者複合体、およびそれにaP1ストーク蛋白質のC末端ペプチド(17残基)が結合した4者複合体の結晶化に成功し、その構造を3Åの分解能で決定した。その結果、aP1ペプチドはEF1A のドメイン1と3の間の疎水性に富むスペースに結合することが判明した。そして、その結合様式は以前解明したGDP結合型EF1Aの場合と完全に異なっていた。 2)GTP結合型EF1AとGDP結合型EF1Aは、構造が異なるにも関わらず、aP1のC末端ペプチドと類似の結合親和性を示した。 以上、2019年度の研究により、ストークとEF1A・GTP間の結合機構(課題a)が解明された。その結合様式は、EF1A・GDPとの結合様式と大きく異なり、ストーク蛋白質の動的多様性の一環が明らかにされた。課題bとcについては実験材料を調製し2020年度以降の研究の準備を行った。なお、2019年度の課題aの解明は、課題bへの展開の構造基盤が得られた点で意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、上述の課題a、b、cの解決から翻訳サイクルにおけるリボソームストーク蛋白質の動的で多彩な性状を明確に示すことを目的としている。当初の予定では、2019年度の課題aに対する研究で、GTP結合型EF1A・アミノアシルtRNAにaP1ペプチドを結合させた四者複合体の構造を結晶構造解析から解明する予定であった。結晶化に向け当初、古細菌Pyrococcus horikoshiiのサンプルを用いたが良質の結晶が得られず、他の種 Pyrococcus furiosusおよびAeropyrum pernixについても解析し、結果的に A. pernixのサンプルが複合体の結晶化に最適であることが分かった。 しかしながら、アミノアシルtRNAを含む結晶では有効なデータが得られず、より安定なGTP結合型EF1A構造を保持する複合体サンプルが必要であった。そこで当初2020年度以降実施を予定していたPelota因子で安定化させたEF1A・GTP・Pelota三者複合体、さらにこれにストーク蛋白質aP1を結合させたEF1A・GTP・Pelota・aP1ペプチドの四者複合体の解析を2019年度に実施した。その結果、A. pernixのサンプルを用いることで3Åの分解能で構造が解明でき、aP1のC末端部とEF1A・GTPの結合機構を解明することができた。 以上のように、課題aに関して予定以上の実験時間を要したため、課題bとcへの取り組みは次の様な実験操作に限定された。課題bに関しては、古細菌EF1Aの他、ヌクレオチド交換因子EF1Bを大量調製し、2020 年度以降の生化学と結晶構造解析の材料を調製した。また課題cに関しては、古細菌細胞由来のリボソームおよび新規GTPase因子YchFの調製法を確立した他、酵母細胞を用いたYchF(OLA1)の遺伝学的研究の準備を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究で、上記の課題aに関する当初目的を達成しており、2020年度以降は、課題bとcの解明に向け、次のような実験を計画する。 課題b)の研究計画: 古細菌由来のストーク蛋白質aP1およびEF1Aに加えて、EF1Aに結合するヌクレオチドのGDP→GTP交換因子であるEF1Bを大量調製し、因子間の結合性をnativeゲル電気泳動法により解析する。2. 14Cにより放射能標識したGDP/GTPを用いてEF1Aに結合するGDPがEF1Bの作用によりGTPに交換することをメンブラン濾過法により確認し、調製したEF1Bの活性を測定する。3. poly(U)を鋳型とし、リボソーム、EF1A、EF2が主要成分となるポリフェニルアラニン合成系にEF1Bを添加し、翻訳伸長反応へのEF1Bの寄与を検出する。4. EF1A・EF1B複合体を結晶化し、その構造を解明する。得られた構造をEF1A・aP1・GDPおよびEF1A・aP1・GTP複合体の結晶構造と比較して、ヌクレオチド交換時におけるEF1AとaP1間の相互作用変換へのEF1B作用の効果を構造と機能面の両視点から考察する。 課題c)の研究計画: 古細菌由来のYchFを大量調製する。また、同細胞よりリボソームを調製する。2. 調製したYchFのリボソーム結合性、およびストーク蛋白質aP1との結合性を生化学的手法により解析し、GTP加水分解を含む機能面の解析を行う。3. 酵母細胞のYchF(OLA1)削除株を作製し、YchFの細胞内の役割を探る。 以上の結果を総括し、EF1A・GDP→EF1A・GTPのヌクレオチド交換時におけるaP1・EF1A間の相互作用の切り替え機構を理解する他、YchF因子の新規機能へのaP1の役割を解明し、翻訳サイクルにおけるストーク蛋白質の動的で多彩なはたらきを明確にする。
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