研究実績の概要 |
神経変性疾患の原因遺伝子産物であるTDP-43及びFUSは、神経細胞のRNA顆粒に集積・凝集化することによって疾患を引き起こすと考えられている。RNA顆粒は、RNA結合タンパク質とmRNAの液-液相分離によって形成され、シナプスへのmRNA輸送と局所的翻訳の制御を介してシナプス長期増強及び長期記憶に必須の役割を担う。このことから、TDP-43及びFUSの凝集化によるRNA顆粒の機能不全が、認知症などの疾患病態の基盤になると考えられており、そのメカニズムの解明は喫緊の課題となっている。我々はこれまで、TDP-43及びFUSのRNA顆粒への集積により、RNA顆粒形成因子RNG105の顆粒における流動性が上昇し、顆粒から細胞質へ離散することを見出した。 本年度はTDP-43及びFUSによってもたらされる上述の変化が、RNA顆粒へのmRNAの取り込み及び顆粒における局所的翻訳にどのような影響を及ぼすかについて解析を進めた。マウス大脳由来神経培養細胞にRNG105-mRFP1を発現し、RNG105が形成したRNA顆粒へのmRNA取り込みを蛍光in situハイブリダイゼーションによって可視化・定量した。また、同顆粒内における翻訳を、SunTagシステムを用いて時空間的に蛍光可視化・定量した。さらに、RNG105-mRFP1発現神経細胞にTDP-43-GFP, FUS-GFPを共発現した際の影響を、同様に可視化・定量した。その結果、TDP-43及びFUSの集積によって、RNA顆粒へのmRNA取り込み量は減少し、顆粒における局所的翻訳も低下することが明らかになった。以上の結果は、TDP-43及びFUSが引き起こす認知機能低下の原因として、RNA顆粒からのRNG105の離散、それに伴うmRNAの解離及び顆粒内における局所的翻訳の低下が考えられるという新しいモデルを導き出した。
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